2024年12月13日、カーボン市場の監視機関である「Integrity Council for the Voluntary Carbon Market(ICVCM)」における重要な決定が、専門家の間で大きな議論を呼び、二人の顧問が辞任する事態に発展しました。この問題の焦点となっているのは、REDD+(森林減少と劣化の防止を目指すプログラム)プロジェクトに関する新しい森林クレジットのルールに対する支持で、専門家たちはその内容に強い疑念を抱いています。
ICVCMとは何か?
ICVCMは、カーボンオフセット市場における信頼性を高めることを目的とした監視機関で、炭素クレジット(温室効果ガス削減証書)の品質基準を定める役割を担っています。カーボンオフセットとは、温室効果ガスの排出を削減するプロジェクトに投資し、その削減量を証明するために発行される証書であり、企業や個人が自らの排出を相殺する手段として利用されます。
ICVCMは、その基準に沿ったプロジェクトの認定を行い、気候変動に関する取り組みを進めるための高い透明性と信頼性を提供しています。特に、REDD+プログラムに基づく森林クレジットの品質を確保するため、厳格な評価プロセスを実施しており、この度の決定はそのプロセスの中で重要な一歩となるはずでした。
新しい森林クレジットルールとその問題
2024年11月、ICVCMは、REDD+プログラムに基づく新しい森林クレジットのルールを承認し、「高品質」と認定された3つの方法論を発表しました。この3つの方法論は、特に森林減少を抑制することを目的としたもので、温暖化対策の一環として重要な役割を果たすとされています。しかし、これに対して2人の専門家が強い反対の意を表明し、辞任を発表しました。
辞任したのは、ドイツのオーコ研究所の国際気候政策研究調整者ラミート・シュナイダー氏と、スイスの気候政策専門家ユーアグ・フスラー氏です。彼らは、今回の森林クレジットの承認が「問題のある前例を作った」とし、ICVCMが掲げる基準に合致しないと主張しています。この決定により、今後のカーボン市場の信頼性が損なわれるリスクが高いと警鐘を鳴らしています。
REDD+プロジェクトの背景
REDD+(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)は、発展途上国における森林減少を抑制し、その結果として温室効果ガスの排出を削減することを目指す国際的なプログラムです。このプログラムは、炭素クレジットを発行し、国際的な取引市場で取引される仕組みを持ち、森林の保護に資金を提供します。これにより、森林の伐採を減らし、気候変動に対する取り組みを強化しようとしています。
ICVCMが新たに承認した3つの方法論は、いずれもREDD+プロジェクトの枠組みで森林減少を抑制するための手段として提案されたものです。これらの方法論は、炭素クレジットが「高品質」であることを証明するために、森林減少の予測や、クレジットが実際に排出削減を生み出すかどうかを測定する基準を設けています。
辞任した専門家たちの主張
シュナイダー氏とフスラー氏は、これらの新しい方法論が「低品質なクレジット」を生み出すリスクを孕んでいるとしています。彼らの主張の中心は、プロジェクト開発者がどれだけ正確に森林減少を予測し、炭素クレジットが実際に必要とされる(「追加性」)ことを証明するかという点です。これらの評価方法が不十分であり、結果として発行されるクレジットが実際の温室効果ガス削減に結びつかない可能性が高いと指摘しています。
また、彼らは、クレジットが「追加性」を持つことを証明するための基準が不十分であり、開発者が削減目標を達成するために必要な投資を示す方法に問題があると指摘しています。加えて、森林火災などによって再び炭素が大気に放出されるリスクにも十分な対応がされていないとしています。
ICVCMの反論と今後の対応
ICVCMのスポークスマンは、この意見の相違を認めつつ、プロセス自体が多様な視点を取り入れていることが強みであり、意見の不一致は予想されることであると説明しています。また、評価された方法論は、環境リスクを軽減するための堅牢なアプローチを採用しており、長期的には信頼性が担保されると述べています。
さらに、ICVCMは、今後のモニタリングを強化し、これらの新しい方法論の実施状況を監視することを表明しました。現在、これらの新しい方法論に基づくクレジットは発行されていませんが、今後大量のクレジットが市場に出る予定です。
今後の課題
シュナイダー氏とフスラー氏は、ICVCMが設定した基準に合格する高品質なクレジットはまだ少ないと指摘し、市場における品質の向上には時間がかかると予測しています。彼らは、もしICVCMが高品質クレジットの基準を維持したいのであれば、単一の基準を設けるのではなく、異なる品質レベルを区別する「階層的システム」の導入を検討するべきだと提案しています。
結論
ICVCMが新たに承認したREDD+プロジェクトに基づく森林クレジットの品質を巡る議論は、カーボン市場における透明性と信頼性の確保のために極めて重要です。シュナイダー氏とフスラー氏の辞任は、今後のカーボン市場における信用を大きく揺るがす可能性を秘めており、ICVCMがどのように市場の信頼を取り戻すかが注目されています。温暖化対策の一環として、炭素クレジット市場が真に効果的であるためには、クレジットの品質と透明性の確保が不可欠です。
https://www.climatechangenews.com/2024/12/13/experts-quit-carbon-market-watchdog-in-row-over-quality-label-for-forest-credits/

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