2024年12月12日、CNNによる報道で、北極の氷を再凍結するための新しい技術「リアルアイス(Real Ice)」が注目を集めています。これは、海水を氷面に噴出させて氷を厚くし、消失しつつある北極海の氷を回復させるという計画です。この試みは、一部の科学者たちからはその効果やリスクに対して懐疑的に見られていますが、実験結果には一定の期待も寄せられています。今回はこの計画の詳細と、科学者たちの反応について紹介します。
リアルアイスの計画と試験
「リアルアイス」とは、イギリスのスタートアップ企業が提案する北極の氷を再凍結する技術です。このプロジェクトは、カナダ・ヌナブトのケンブリッジ湾という極寒の地域で進行中です。そこで、チームは海氷を掘り、海水をその表面に噴出させて氷を厚くしようとしています。この技術は、極端な寒冷地での過酷な作業を伴いながらも、将来的には「自動化された海底ドローン」を用いて、人工的に氷を厚くすることを目指しています。
リアルアイスの最終的な目標は、北極の386,000平方マイル(約100万平方キロメートル)以上の海氷を回復させることです。この面積は、カリフォルニア州の2倍以上に相当します。彼らの計画によれば、これにより夏季の氷の減少を抑え、さらには逆転させることができるとされています。この技術は、気候変動による北極海の氷の減少に対する最終的な防波堤になると期待されています。
科学者たちの批判と懸念
一方で、科学者たちからはこの計画に対する強い批判もあります。特に、リスクやエコロジーへの影響に対して懐疑的な声が上がっています。アメリカのウッドウェル気候研究センターのジェニファー・フランシス博士は、「この方法が局所的に氷を厚くすることは確認されているが、気候危機に本当に大きな影響を与えるかは疑問だ」と指摘しています。また、ブリストル大学のリズ・バグショウ博士は、「このような介入は極端であり、倫理的に問題がある」と述べ、北極地域の生態系に与える潜在的な影響を懸念しています。
多くの科学者たちは、氷の再凍結が可能であっても、その規模や長期的な効果に関しては疑問視しています。北極の氷は現在、気候変動により急速に減少しており、1980年代半ばから現在までに、厚い多年氷の面積は95%も減少しています。残っている氷は薄く若いもので、これが気候変動をさらに悪化させる原因となっています。
リアルアイスの技術と実験結果
リアルアイスの技術は、海水を氷の下にある海面から抽出し、それを氷面に送り込むことで氷を成長させるというものです。この方法では、氷の上に雪を取り除き、その結果、氷の下側がさらに成長することが期待されます。この技術は、環境に優しい電力で動く海底ポンプとドローンを使用し、氷の下から熱いドリルで穴を開け、海水を上げて氷を厚くしていきます。
リアルアイスは、2023年からアラスカで初めての実験を行い、機器が極寒環境に耐えられるかどうかを確認しました。その後、2024年1月からはカナダ・ケンブリッジ湾で本格的な試験を開始し、すでに約44,000平方フィートの氷を対象に20インチ(約50センチ)の氷を追加したと報告しています。さらに、2024年11月からは再びカナダで実験を行い、最初の10日間で氷の厚さが約4インチ(10センチ)増加したとされています。
実現可能性とスケールアップの課題
リアルアイスの最終的な目標は、この技術を10年以内に商業規模で展開し、年間500,000機のドローンを使用して北極の氷を再凍結することです。しかし、この計画は非常に高コストであることが予想されており、リアルアイスは年間50億〜60億ドル(約7,000億円〜8,500億円)の予算が必要だとしています。
このプロジェクトは、主に自己資金と一部の投資家からの資金で運営されていますが、最終的には政府や国際的な基金が資金提供することを目指しています。また、リアルアイスは「冷却クレジット」という仕組みを導入する予定で、これにより汚染を引き起こす企業が、氷の再凍結に資金を提供することができるようにします。
結論と今後の課題
リアルアイスの計画は、気候変動対策として一部の科学者や環境活動家にとっては非常に魅力的なものと映りますが、依然として多くの疑念や懸念があります。北極の氷が回復することで、地球の気温上昇を抑えるために貢献できる可能性はありますが、同時にその規模や長期的な影響については慎重に検討する必要があります。実験の結果はまだ初期段階にあり、今後数年でその実現可能性が明らかになるでしょう。
どんなに革新的な技術であっても、根本的な気候変動の原因である化石燃料の使用削減が最も重要であることを、科学者たちは強調しています。リアルアイスのような技術が気候問題の解決の一助となるのは確かですが、それを支えるためには、世界中で一丸となった気候変動対策が不可欠であることを忘れてはなりません。

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