7章 教育 : 持続可能な社会プラウトヴィレッジ 第三版

 

○プラウトヴィレッジにおける教育


 プラウトヴィレッジの教育はDuty Shareと紐づいている。Duty Shareには医療関係、住居建築、農業、水質管理、教育など様々な分野がある。それに参加すること自体が学びであり、自治体運営でもある。工場設備の使い方を覚えるのも、道路の補修をするために工場設備の使い方を覚えるという形で、学びと実生活がリンクする。


 また特に子供は生きていく上で読み書きと四則演算を学ぶ必要がでてくるが、それを教える教師もDuty Shareの一つとなる。自治体の中央広場は人が集まる場所という設計なので、そこで授業が定期的に開かれる。授業への参加は強制ではなく、子供はやる気がでたときに通い始める。

 

 現時点では読み書きと四則演算以外の教科を基礎能力とは位置付けていない。その上で、次の4つが教育の柱となる。


①読み書きと四則演算

②Duty Share(自治体運営への参加)

③好きなことに取り組む

④自我と無心



①読み書きと四則演算
 プラウトヴィレッジは脱レアメタル社会でもあるので、個人がPC、スマホ、AIを使うことはなくなる。そのため読み書きと四則演算は手書きで覚える。


②Duty Share(自治体運営への参加)

 自治体運営には様々な業種が必要になる。全てを1人で学ぶことはできないので、住民が選択制で参加しながら、まず一つについて学び始める。そのため統括部が人数調整を行う。住居建築、道路の補修、生活品製造など、すべてが生きていく上で必須スキル。その中である業種に関しては浅かったり、反対に詳しくなったりがある。


③好きなことに取り組む

 人が情熱的に、主体性を持って、深く、継続的に学んでいくためには、好奇心に従うことが第一条件となる。それはやがて特技となり、自信にもなり、物事をよく理解する人物へと成長していく。プラウトヴィレッジは長時間働く会社がないので、自由に好きなことに取り組む時間が豊富にある。


④自我と無心

 人間には「私」という自我が誰にでもあり、「私」という思考から始まる。自我が強いと欲深くなり、苦しみが増える。そして自我が重い人ほど不誠実になり、自我が軽い人ほど誠実になっていくる。

 この思考は誰でも突発的に起こり、それに気づいて意図的に止め、無心になるようにクセづけていくことが自我に振り回されないコツとなる。つまり自我に関する無知を取り除き、無心を実践する人が増えるほど、個人も世界も穏やかで平和になっていく。

 ただ無心は強制的なものではないので、世界連邦のプログラムとしてラジオなどで広めていくという形になる。


○オーガナイザーの適正


 Duty Shareでは人に教えたり、仕切ったり、調整したりするオーガナイザーが必要になる。大事なことはオーガナイザーと参加者は、自治体運営に必要なことを協力し合う関係にあること。つまりオーガーナイザーが上で、参加者が下という関係ではない。よってオーガナイザーは性格的に協力的でサポート的な人物が適している。一言で言えば誠実な人ということになる。もし上から目線で指示する人がいれば、参加者は簡単に他のDuty Shareに移動してしまう。そうなると成り立たなくなってくるので、統括部がオーガナイザーを任命する時は、次のルールを守れる人物を選ぶ。

・参加者は教えられる対象ではなく、共に学ぶ存在として尊重される。
・参加者を見下さない、怒らない、否定しない、笑い者にしない。

・参加者がやることに毎回口出ししない。

・参加者が失敗しても否定しない。学びの一部として肯定する。

・参加者へ教えたがりにならない。

・参加者の話を最後まで聞き、安心して話せる関係を作る。

・参加者に関心を持ちつつも信頼して任せる放任主義であり、自由を邪魔しない。
・参加者には致命的な怪我になりそうなことは、事前に伝えておく。

これも自我の軽い人が適任。自我の重い人はこれと逆のことを行う傾向にある。オーガナイザーに選ばれた人物は、掲示板などへ開催日と場所をお知らせし、住民はそれを見て申し込む。



○無心について

 人間誰もが不幸せより幸せになりたいと思っている。そして多くの場合、何かを得ることでそれが叶えられると信じている。例えば「お金をたくさん稼げばあれもこれも買え、幸せになれる」「有名になったり何かで成功すれば幸せになれる」「あの異性と付き合えれば幸せになれる」など。


 例えば気になる異性と付き合うことになり、始めは嬉しい気持ちで一杯になっても、時間が経つと次第にその感情が薄れ、場合によってはケンカが多くなり、苦しくなり、別れに至ることがある。付き合う前には相手を所有したい欲望が生まれ、それが付き合うことで喜びや幸せに変わり、別れ際には苦しみがやってくる、という過程を経る。


 ここで大事なことは、どんな外部的な事柄も、得て満たされるのは自分の中の所有欲や自己顕示欲(けんじよく)で、そこで得られる喜びや幸せは長続きせず、もっと欲しくなり、やがて苦しみに変わり、それに囚われているうちは、幸せと苦しみのサイクルを延々と繰り返す。幸せと苦しみは表裏一体の関係にある。しかし人間は、苦しむより幸せになりたいと思っているわけで、その答えはどこにあるのか。その答えは幸せと苦しみの両極端の間の「無心」にある。無心に、穏やかさ、平安、安らぎ、静寂、平和がある。ここで無心を理解するために、次の簡単な方法を行ってみる。


○意識を一点に集中して無心になる


 立ってでも座ってでも良いので20秒間目を閉じる。その中で頭に何か考えや言葉が突発的に浮かんでくるが、それが思考。そこから苦しみが生み出される。


 次にもう一度20秒間目を閉じてみる。そして眉間(みけん)に意識を向ける。すると意識が一点に集中し、一瞬思考が止み、無心になる。つまり意識的に思考を止めた。さらにゆっくりと鼻から息を吸い、ゆっくり吐くとより深く集中できる。これは目を開けて行っても良い。


 眉間の裏辺りは思考が浮かんでくる場所で、ここに過去の思い出や未来の予測や不安が突然浮かんでくる。そして無心になるとそれらが止み、静寂が訪れる。つまり思考の勝手なお喋りがなくなり、苦しむことが減る。あとは常にこの意識的な注意を続ける。継続してクセづいてくれば脳内が常時静かになり、思考が起こってもすぐそれに気づき、無心になろうと習慣化される。

 

 これは意識的に注意深い状態にあるということ。これと反対が無意識の状態。誰でも怒ったり興奮した時、感情のまま暴言を吐くことがあるが、それは無意識の状態で注意深くないから起こる。今行ったように意識的に内面を観ている時は、注意深い状態なので感情に流されることが減る。


 眉間に意識を向けるのは一つの方法で、対象はなんでも良い。例えば流れる雲を見つめる、歩きながら環境音に意識を向ける、呼吸に意識を向けるなど。



○思考が苦しみを生む


 意識的な無心を毎日繰り返していくと、思考に頭が占められた時も、それに気づくようになる。こうして一日の中で無心の時間が増えるごとに、思考が生み出す苦しみは減っていき、静かに止んでいることが習慣化されてくる。心が静かでない人は思考グセがついている。ネガティブな考えが多い人は、鬱(うつ)になることもある。

 この方法で一つ大事なことに気がつく。頭を無心にしていても勝手に思考が始まり、過去を思い出し始めたりして、怒りや悲しみの感情が沸き起こる。それは自分でも気づいていないほど昔の思い出や、心の傷、劣等感だったりもする。この思考の習性を知らない人は、勝手に起こる思考に感情が振り回され、怒ったり悲しんだりして苦しむことになる。しかしこういった思考が起こった時も「これは一時的で、無心になれば思考も苦しみも止む」と知って無心になれば、やがて穏やかな状態、静寂の状態、落ち着いた状態にとどまれる。ただ強烈な怒りや不安が起こる場合は、落ち着くまでに時間はかかる。
 

 ここで理解できることは、無心の時、人間の心は穏やかになっていき、平和になる。一般的な価値観である何かを得たり達成したりして得られる幸せ、喜びは一時的で、時間が経てばそれらは薄れ、再び欲望が現れ、それが執着となり、苦しみが始まる。幸せと苦しみは表裏一体で交互にやってくる。そこに穏やかさはない。永続的な穏やかさは心を無心にした時だけ得られ、それは思考を止めるだけ。思考が頭を占め、何かに執着するほど苦しみが生まれるので、その過程をよく観察し、その気づきを得ていけば、より簡単に頭に刷り込まれた苦しみを生み出す思考パターンから抜け出しやすくなる。


 思考をずっと止めることは性質上できないが、無心になって思考を止めれるということは、自我というのは瞬間的に現れる霧のようなもの。つまり自我は瞬間的に現れて消えていくので、浮かんでも相手にしないという感覚になってくる。


 幼稚園児の時は思考力がそこまで発達していないので自我も弱く、悩み事も少なく、常に楽しそうに過ごせる。怒られてもケンカしても、10分もすれば何事もなかったかのように過ごす。10歳頃から第二次成長期に入ると体つきが大人になり、思考力も高まって自我(エゴ)も強くなる。するとその分、悩み、妬み、劣等感、苦しみ、争いが増えてくる。

 思考を使うことは悪いことではなく、何か計画を立てたりする時は使う。それ以外の時は思考を沈めておく。無心になるのに生活環境を変える必要はなく、仕事を続けていても、日常生活を送りながらでもできる。



○人生の目的


 全ての人間は常に何かに悩み、苦しんでいる。その苦しみは、過去の記憶や未来への不安からくる思考があるために生まれる。しかし無心の人の内面には平和、穏やかさが訪れる。すると苦しむことも減る。


 日常生活で自分の身の回りに起こる問題や人間関係は、自分の思考からくる行動と発言が作り出したもので、無心になり沈黙を基本としながら節度ある会話量で人と接すれば、不必要な問題が起こりにくくなり、問題が起こったとしてもそれを問題とみなさず悪化させない。例えば苦手な人に出会った時に頭で苦手だと考えていると、相手にそれがいつの間にか伝わっていることがある。苦手だと思ってもすぐに気づいて無心になると、その後人間関係が悪化しづらくなる。


 無心になり、思考(自我)→欲望→執着→苦しみのサイクルを抜け出し、心穏やかにあることが、プラウトヴィレッジが推奨する人間の人生の究極的な目的。人間の動作にクセがあるように、思考にも思いグセがあり、それがネガティブなものであれば無意識に苦しむことになる。無心をクセづけて、それを克服する。

 思考(自我)がなく「私」がないと、私の体も私の物もなく、私の人生の意味もなくなる。この思考がない時、最後に頭に残るのは意識だけになる。意識が最初にあって、次に思考(自我)が起こる。つまり意識が本体で、自我がその後に現れるもの。人間が「私」だと思っている自分の名前や体、性別、国籍などは記憶の塊であり思考。つまり思考は意図的に消せる幻想であり、意識が人間本来の姿。思考がなく意識だけの時には穏やかさや平安が訪れ、そこから自我(思考)が現れると苦しみが始まる。


○理念


意識として在り、無心になり、自我を手放し、穏やかな心を保つ。

戦争・武器・貨幣がなく、自然が回復できる範囲内で全ての人が過不足のない持続可能な生活を営む。


○文明持続の5原則

●誠実なリーダーを選ぶ

 人間は集団に属して生きているが、集団にはリーダーが誕生する。そのリーダーが戦争をするかの最終決定を下す。リーダーが誠実であれば戦争や争いを選択しない。不誠実なリーダーの下では争いが起こる。

●資源の公平分配
 隣の集団は物資に満たされ、自分の集団は満たされていないと妬みや怒りが起こる。すると隣の集団から物資を奪おうとする気持ちが芽生える。こういった不満を絶つために資源を公平分配する。

●脱貨幣社会
 貨幣は便利な交換手段だが、持つ者と持たない者の差が大きくなり、競争心をあおり、不平等感が強まる。それは政治権力ともつながり、資金力のある強欲で不誠実な人物が知名度も得てリーダーになりやすくもなってしまう。貨幣は科学の発展を促してきた側面はあるが、科学が発展した分だけ人々が幸せになるわけではなく、人々の争いを強化してきた。脱貨幣社会を維持し、無駄な消費行動、無駄な競争などを断つ。

●調和技術
 科学技術は生活を便利にし、世界の人々の距離を縮めてきた。ただ利益優先の貨幣社会では科学技術が高度に発展しても、生きるために必要な自然環境が破壊され、自滅に向かう。自然循環を破壊せず、生活を助け、世界の人々の交流が維持できるレベルの調和技術を基準とする。

●世界的普及
 ここまで挙げた要素を世界共通ルールの土台とし、全ての人々がこれを知り、守ることで世界から戦争がなくなり、自然破壊もなくなり、不平等もなくなり、持続可能な社会が維持される。


○終わりに


「プラウトヴィレッジはインターネット、パソコン、スマートフォン、AIなど最新技術を手放して、今から2000年代以前に使用されたミッドテック技術に戻るのか、退化なんて誰も望まないのではないか?」という問いは誰にでも浮かぶだろう。これらの最新技術は貨幣社会の中で、人々が朝から晩まで生活に余裕なく働いているため維持できている。つまり技術的には便利になっているが、同時にたくさんの社会問題やストレス・不安も抱えることになっている。科学技術が発展した分だけ人間の労働時間が減り、幸せになっていれば良いが、実際はそうはなっていない。  プラウトヴィレッジでは何よりも生活に時間的な余裕があり、ゆったりと伸び伸び生活できる。毎日長時間働く仕事もなく、移動も無料なので旅行もいつでも行ける。そこに生活の必要性を満たすミッドテック技術がある。スマホで誰かと常に連絡をとって繋がらなくても直接会いに行けばよく、電話もできる。そして調和技術なので環境破壊もない。  科学技術の部分だけで見るとプラウトヴィレッジの調和技術は退化しているように見えるかもしれないが、実際は必要な利便性を残しつつ、生活のそのものの質や快適さが向上する。  プラウトヴィレッジはミッドテックレベルの技術を主体にしながら街づくりを行うが、人間の言動に直接つながる自我について理解する人が増えることも鍵になる。どうして人間は苦しむのか、どうして争いや問題が起こるのかは全て自我と思考があるからであり、意識的に意識として在る人が増えることが平和で穏やかな社会を築く土台となる。そういった意味でプラウトヴィレッジと共に訪れるこれからの時代は、人間の精神向上の時代でもある。  そして世界中のあらゆる問題の解決に向けてプラウトヴィレッジが人々に促す最も具体的かつ効果的な行動は、「プラウトヴィレッジへの移住」。それが最もシンプルで影響力があり、すべての社会問題の解決につながる。



持続可能な社会 プラウトヴィレッジ 第3版

著者 久保田 啓敬 / Hiloyuki Kubota

Website

Email

proutvillage.info@gmail.com

版数

発行日

第1版

2020年7月9日

第2版

2023年6月1日

第3版

2025年12月6日


 プラウトヴィレッジの持続可能な社会を理解するためには、次の文書も重要となっております。

⚫︎ 文明の繁栄と衰退のパターン
⚫︎ 自我から意識へ
⚫︎ 信仰の起源
⚫︎ この世の構造と法則

 これらは下記のリンクよりご覧ください。
https://www.proutvillagefree.com/p/blog-page_88.html

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