◯成長から衰退へ向かう典型パターン
ウイルスが加速度的に増加する例など、自然の中にはS字カーブが法則として見られるという話だった。人間も自然の一部なのでS字カーブが見られた。
ウイルスと人間社会のS字カーブ
2020年代までは人口でも技術の発展でも生活の質でも成長が見られた。それが人口の減少、資源の枯渇とそれにともなう電子機器の性能低下など、すでに見られる衰退やこれから見られるものも見えている段階。
つまり2020年代は、S字カーブの頂点に達した後の衰退の兆候が見られる時期。ただAIなどテクノロジーがこういった問題を解決するという見方もある。しかしそのAIもレアメタル依存で、複数の資源の枯渇が迫っている。
人類史にはたくさんの国が現れては滅ぶということが繰り返されてきた。それらも含め一つの大きな時間軸で見ると、S字カーブの中で人類は次のような流れを歩む。
農村→都市化→貨幣導入→階級化→商業発達→技術発達→格差拡大→環境負荷→衰退→自滅の可能性 or 再編。
これをさらに詳細にまとめたのが次の表。仮にもう一つ別の石器時代の地球があっても自然の法則により成長→飽和→衰退と、この内容と同じ典型的なS字パターン辿る。なぜなら人間の行動の根底には「私」という自我があるため。自我は「私」を守りたい欲や安心を求める欲でもあり、さらに安心を求めるが故にもっともっとと求める欲でもある。そのため同じパターンを辿る。
つまり技術や文明の細かな詳細は違っても、人間の自我の性質上、戦争、貨幣、都市形成、人口増加、商業発達、資源の枯渇、衰退という同様のパターンを辿る。
文明の繁栄と衰退のパターン
ではS字カーブの頂点から衰退への兆しが見えている人類は、それでも新たに生き延びていく種となるのか。衰退期に入った後も生き延びるウイルスは、戦略的に暴走せず、環境とバランスを取ることで生き延びている。
生き延びるウイルスの戦略
ウイルスのこういった生存戦略は資源共有の原則に基づくもので、動物にも見られる。ただ2020年代の産業文明の人間の行動は、それとは異なっている。
持続的生存の4原則
自然の法則や傾向から見ると、短期的利益を追った人間社会は崩壊へ向かう種の典型的パターンと言える。ウイルスで言えば、感染後に暴走して宿主を死なせ、結果として自分も滅ぶ株。鍵は、自然の法則を理解した上で、意識的に「共有」を前提とした社会システムを再設計することにある。ホモ・サピエンスの登場から20万年、人類はこの時間軸で一つのS字カーブを描いてきた。その頂点に達し、衰退か新しい社会システムへの移行を迫られる段階にいるのが2020年代ということ。
◯安心感と自由を求める人間
ここまで様々な文明の例を見てきたが、北欧5カ国に見られたように人々の生活の安心感と自由が高い時は幸福度も高くなっている。また崩壊していない独裁国家の例からは、限定的だが移動と居住の自由や経済的自由が不満を和らげる要素でもあることも見える。つまり自分の生活の質は、自分でコントロールできるという自由度が重要ということ。
幸福度が高くなる要素(安心感)
①経済的自由:お金の心配がない状態
・大学までの教育費無料、失業保障、有給休暇の義務化など社会保障が手厚い。
・全国民に無償または低額で医療を提供など福祉制度が手厚い。
・住居の手頃さなど生活コストの低さや生活物資に困らない。
②政治的自由:権力に縛られない状態
・完全民主主義体制での生活。
・政府の腐敗度が低く、信頼できる。
・自由に発言・行動できる。
③文化的自由:周囲に合わせなくていい状態
・創造性・自主性を重んじた教育。
・個性を発揮できる。
・移動と居住の自由がある。
・労働時間が短く、自由時間が長い。(幸福度が高い北欧5カ国は労働時間が1日6時間/週5日ほどで、自由時間は約5時間40分ほど。どちらも世界トップクラス。)
④社会的つながり:人間が本能的に求めているもの
・自給自足を行う農村→親や近所の助け合いが強い→子育てを助け合う→子供を安心して産める。
・近所に信頼できる人が多い。
・近所の助け合いが強い→地域の犯罪率が下がる→治安が良い。
・パートナーがいることで幸福度が上がる。
・友人と頻繁に交流する。
・社会的格差が低いこと→他者との比較文化が薄まる。
⑤安定した環境:人間活動の土台となるもの
・戦争がない。
・自然環境が維持されている→気候変動など生活を脅かす脅威が少ない。
反対に幸福度が低くなる時は次の時。
幸福度が低くなる要素(ストレスと安心感のなさ)
①経済的不自由:
・低収入。
・住宅費や物価高など生活コストの高さ。
②政治的不自由:
・権威主義体制での生活。
・政治腐敗。
・表現、移動、居住の自由がない。
・不平等。
③文化的不自由:
・長距離通勤。
・労働時間が長い。
・経済機会が少ない。
・社会的格差が大きい→他者との比較文化が強まる。
・交通渋滞、混雑、日常生活のストレス。
④社会的つながりのなさ:
・家族や近所付き合いの希薄化→治安悪化。
・友人との交流が頻繁にない。
・孤独。
⑤不安定な環境:
・戦争。
・自然環境の破壊→気候変動など。
このように人間は、今も未来にも安心感と自由を感じると幸福感も感じる生き物。貨幣依存と都市化はその反対をいくもので、不安と孤独感、個人主義へと走らせる仕組み。その中で安心感を得るために頑張って仕事をしたり、お金を儲けようとする。資源の略奪戦争すらも、生活の安心を得ようとするため。
ただ問題は貨幣社会のように奪い合いや競争を根本にしている間は、一時的に勝ち取って安心感を得ても、それを狙われる不安や失う不安に襲われる。よって本質的に安心が持続しない。つまり古代から続く権威主義、貨幣社会、産業文明、資本主義、社会主義のような社会システムは競争を根本としているため、人間の安心を求める心理的本能と構造的に矛盾している。奪い合いや競争をなくし、共有や公平な分配をベースにした格差のない社会システムが人間の性質に適しており、安心感と自由からくる幸福感を感じることになる。
◯無意識から意識的な社会システムへ
人間は誰もが幸福を求めているが、自然の法則や自我を理解せず無意識に生きていると、先程まとめた「文明の繁栄と衰退のパターン」を辿ることになる。このパターンを解りやすく2段階でまとめると、次のようになる。
⚫︎1段階目:農村
定住と農業・略奪戦争・権威主義・武装化・都市化・王権、官僚制度、軍隊、
⚫︎2段階目:都市
貨幣制度・徴兵制、税制、格差、商業発展、知識や技術の発展、人口の一極集中、TFR低下、自然破壊
大事なことは人間社会は流れに任せて無意識に生きているだけだと、安心感と自由のない要素にいつでも向かってしまう傾向があるということ。このパターンを理解した上で、意識的に幸福感を感じられる社会システムを築いていく必要性がある。そのために必要な要素が次の表。
持続的な安心感と自由のある社会の要素
世界中の国が完全民主主義になれば幸福度は上がる。ただ北欧諸国でも見られるが、貨幣が存在し自由競争が行われると、商業が発達するので資源が過剰に使用され、環境破壊が進む。つまり貨幣制度そのものをやめなければ、地球という生きる環境を持続させることが難しくなる。すると結局は幸福度が下がってしまう。また貨幣があると利益を求める人々が集まり都市化が加速し、結果的に人々の中で安心感よりも不安が大きくなる。
貨幣制度には他にもベーシックインカムや地域通貨、暗号通貨などの案もあるが、これも貨幣制度の一部なので利益主義は変わらず、環境破壊も継続され、格差もなくならない。
また都市化を防ぐため居住人数制限を取り入れたとしても、貨幣制度では競争に勝たなければならないので不効率さが目立ち、やがて撤廃するリーダーが現れ、再び都市化が起こる。
「持続的な安心感と自由のある社会の要素」を満たした新たな社会システムを本書でまとめることはしないが、それはすでに「持続可能な社会 プラウトヴィレッジ(最新版)」という社会システムでまとまっている。また自我については「自我から意識へ」という文書にまとめている。
文明が発展していく流れの根底には、人間の自我がある。紀元前9000年頃に起こった資源略奪戦争が、1万1000年経った2020年代にも起こっている。自我と文明の繁栄と衰退のパターンを知ることが、今と将来の世代が同じことを繰り返さないためにも必要となる。
そして産業文明と資本主義社会の人類がS字カーブの頂点からベル型で衰退していくパターンを辿るのかは、新しい社会システムへ移行できるかにかかっている。
文明の繁栄と衰退のパターン
著者:久保田 啓敬
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