第4章 総括:文明の繁栄と衰退のパターン

 

◯成長から衰退へ向かう典型パターン


 ウイルスが加速度的に増加する例など、自然の中にはS字カーブが法則として見られるという話だった。人間も自然の一部なのでS字カーブが見られた。

ウイルスと人間社会のS字カーブ

フェーズ

ウイルスの場合

人類史の場合

初期の緩やかな増加

宿主(しゅくしゅ)の数が限られているため感染は少しずつ広がる。

狩猟採集生活→農村→都市→産業革命にかけて人口は徐々に増加。ただ環境負荷は小さい。

初期の指数関数的増殖・競争の発生

感染エリアが広がり、宿主が十分にいるとき、ウイルスも感染者数も急速に増加。

産業革命後、新しい土地、技術、資源を大量に活用し、経済や人口が急速に拡大。

資源制約で増殖・成長の鈍化

感染可能な宿主が減り、免疫獲得者が増え、感染速度が鈍化。

過剰な経済活動によって天然資源・土地・エネルギーの枯渇、地球温暖化、森林伐採、自然環境悪化などによる経済成長の鈍化やその兆し。また地球の持続可能性が低下。

減少・衰退

宿主不足や感染者の免疫獲得により、ウイルスも感染者も減少。

可能性として、レアメタル枯渇により電子機器の性能低下。都市化と人口の一極集中→貨幣依存→経済格差→TFR低下により人口減少→国力低下。核戦争の可能性や環境悪化による社会や文明の危機。



 2020年代までは人口でも技術の発展でも生活の質でも成長が見られた。それが人口の減少、資源の枯渇とそれにともなう電子機器の性能低下など、すでに見られる衰退やこれから見られるものも見えている段階。

 つまり2020年代は、S字カーブの頂点に達した後の衰退の兆候が見られる時期。ただAIなどテクノロジーがこういった問題を解決するという見方もある。しかしそのAIもレアメタル依存で、複数の資源の枯渇が迫っている。

 人類史にはたくさんの国が現れては滅ぶということが繰り返されてきた。それらも含め一つの大きな時間軸で見ると、S字カーブの中で人類は次のような流れを歩む。


 農村→都市化→貨幣導入→階級化→商業発達→技術発達→格差拡大→環境負荷→衰退→自滅の可能性 or 再編。


 これをさらに詳細にまとめたのが次の表。仮にもう一つ別の石器時代の地球があっても自然の法則により成長→飽和→衰退と、この内容と同じ典型的なS字パターン辿る。なぜなら人間の行動の根底には「私」という自我があるため。自我は「私」を守りたい欲や安心を求める欲でもあり、さらに安心を求めるが故にもっともっとと求める欲でもある。そのため同じパターンを辿る。​​

 つまり技術や文明の細かな詳細は違っても、人間の自我の性質上、戦争、貨幣、都市形成、人口増加、商業発達、資源の枯渇、衰退という同様のパターンを辿る。

文明の繁栄と衰退のパターン

区分

内容

狩猟採集

狩猟採集生活で、季節によって移動しながら食料を得る。


守るべき資源や食料の備蓄がないので、戦争のリスクは低い。


平等型リーダーシップ制で、必要な時にリーダーが現れる非階層の人間関係。


共同体意識が強く、食料を分け合うなど共有文化。

農村

定住し農業を始める。


人口が増える。


備蓄した食料と資源が狙われ、他の農村との略奪戦争が起こる。


村を守る指導者や戦士という階層が生まれ、命令と服従の権威主義も徐々に強まる。


武器や堀や柵など防御施設が発達する。


兵器の強い側が弱い側を威圧し征服する。

都市

征服する・されるが繰り返される中で農村が集まり、中心都市が形成され、支配者層が現れる。


都市国家が誕生する。


王権、官僚制度、軍隊の仕組みが始まる。


貨幣が導入される。ただ貨幣への依存度は低く、自給自足と物々交換が主流。


徴兵制が始まる。


税制が始まる。


雇用が始まる。


経済格差が生まれる。


土地の私有化が始まり、借金、奴隷が生まれる。


経済力や教育などによる社会階級、生まれによって決まる身分制度が強まり、差別が生まれる。


商業が発展する。


数学と文字が発展し、科学技術や金融など各分野に影響を与え相互発展する。


やがて蒸気機関車や飛行機のように、人と物を大量に、速く、遠くへ運ぶ技術が発明される。


農村から都市へ人々の移住が加速し、大都市の一極集中と農村の過疎化が同時に進む。


農村の自給自足的生活が縮小し、都市の貨幣中心生活が広がる。


老後の生活を支える仕組みとして年金制度が始まる。


都市では核家族が増え、遠くに住む実家の両親が子育てを手伝えず、近所の助け合い精神も薄れ、個人主義に傾き、街の犯罪率が高くなる。


都市の生活コストが高く、将来に対する金銭的な不安や孤独感が大きくなる。


人、物、場所による地域で子育て文化が弱まり、TFR(合計特殊出生率)が下がり始める。


TFRが減少傾向でも、医療が発達し整備もされ、乳児死亡率が下がり、寿命が伸び、一時的に人口が爆発的に増加する。


都市化による効率主義と、農村の若者流出によって伝統文化が継承されず衰退する。


農村でも貨幣制度の浸透によって近所の繋がりが薄れ、高齢者の孤立化が進む。


精神保健サービスが広まっていない農村の自殺率が都市を上回る。


科学技術が飛躍的に向上し、世界の物理的距離が縮まる。


国家間、企業間、個人間で世界的な経済競争が繰り広げられる。


兵器の破壊力が増す中、土地や資源の略奪戦争は変わらず起こり続ける。リーダーの欲望、防衛的な要因、民族的対立など戦争の理由が複雑化する。


国のTFRが2.1人を下回った時から人口減少に転ずる。


国力維持のため移民を受け入れ、一時凌ぎの人口維持が行われる。


経済活動を止めると衰退するため、国も企業も個人も働き続ける。そのため過剰生産、資源枯渇、温暖化、海面上昇、森林伐採などで、人間が生きるための地球環境を破壊し続け自滅の兆候が見え始める。


持続可能な新たな社会システムを求める人々が現れる。


鉱物資源の枯渇前の供給制約とそれにともなう代替素材の使用で、電子機器の性能が低下する



 ではS字カーブの頂点から衰退への兆しが見えている人類は、それでも新たに生き延びていく種となるのか。衰退期に入った後も生き延びるウイルスは、戦略的に暴走せず、環境とバランスを取ることで生き延びている。

生き延びるウイルスの戦略

共通点

ウイルスの場合

人間社会へ適用した場合

ほどほどの増殖/環境との共存

宿主や資源を枯渇させず、自己抑制的に増殖し、持続的に感染。

過剰な人口増加や資源消費を避ける生活様式・経済活動よって、自然資源や土地を持続的に利用。

分散と柔軟性

一か所に集中せず、複数の宿主や地域に分散。

都市への一極集中から農村や地方に分散し、単一資源や経済依存に偏らない。

変異・適応

宿主や環境の変化に応じて変異し、感染性や致死性を調整。暴走して宿主を枯渇させた株は減り、長期的に宿主とのバランスを取れる株が残る。

技術、制度、文化を変化させて環境や資源条件に適応し、自然環境を枯渇させない社会システムに移行すれば持続可能。逆に経済成長、利益主義のリーダーの下では自滅する。


 ウイルスのこういった生存戦略は資源共有の原則に基づくもので、動物にも見られる。ただ2020年代の産業文明の人間の行動は、それとは異なっている。

持続的生存の4原則

原則

生物学的戦略

(ウイルス・動物)

持続型社会(未来型)

産業文明社会(2025年)

1. 資源を枯渇させない

宿主や環境を過剰消費せず、長期利用可能な状態を保つ。

森林・海・土壌・鉱物を再生速度以内で利用し、資源管理を行って循環できるようにする。

森林伐採・乱獲・化石燃料の大量消費により再生速度を超える利用。資源枯渇が進行中。

2. 相互依存で安定を保つ

他個体・他種との共存を維持し、争いを最小化。

地域・国家間で資源や知識を共有し、協力を優先する国際秩序を構築。

資源争奪による紛争や経済格差の拡大。排他的競争が優先され、協力は二次的。

3. 多様化と分散で変化に耐える

宿主や生息地を多様化し、環境変動に備える。

エネルギー源・食料供給・産業構造を多様化し、災害や気候変動に強い社会。

化石燃料依存・単一農業・輸入依存で多様性が低く、環境変動や災害に脆弱。

4. 長期的視点で進化する

環境や宿主に適応し、短期的な暴走ではなく持続的繁栄を選ぶ。

経済・制度を長期的で安定的なな仕組みに移行し、世代を超えて存続可能な基盤を整える。

短期利益を優先する経済成長モデルが支配的で、長期的存続可能性が低い。


 自然の法則や傾向から見ると、短期的利益を追った人間社会は崩壊へ向かう種の典型的パターンと言える。ウイルスで言えば、感染後に暴走して宿主を死なせ、結果として自分も滅ぶ株。鍵は、自然の法則を理解した上で、意識的に「共有」を前提とした社会システムを再設計することにある。ホモ・サピエンスの登場から20万年、人類はこの時間軸で一つのS字カーブを描いてきた。その頂点に達し、衰退か新しい社会システムへの移行を迫られる段階にいるのが2020年代ということ。



◯安心感と自由を求める人間


 ここまで様々な文明の例を見てきたが、北欧5カ国に見られたように人々の生活の安心感と自由が高い時は幸福度も高くなっている。また崩壊していない独裁国家の例からは、限定的だが移動と居住の自由や経済的自由が不満を和らげる要素でもあることも見える。つまり自分の生活の質は、自分でコントロールできるという自由度が重要ということ。



幸福度が高くなる要素(安心感)

①経済的自由:お金の心配がない状態
・大学までの教育費無料、失業保障、有給休暇の義務化など社会保障が手厚い。
・全国民に無償または低額で医療を提供など福祉制度が手厚い。
・住居の手頃さなど生活コストの低さや生活物資に困らない。

②政治的自由:権力に縛られない状態
・完全民主主義体制での生活。
・政府の腐敗度が低く、信頼できる。
・自由に発言・行動できる。

③文化的自由:周囲に合わせなくていい状態
・創造性・自主性を重んじた教育。
・個性を発揮できる。
・移動と居住の自由がある。
・労働時間が短く、自由時間が長い。(幸福度が高い北欧5カ国は労働時間が1日6時間/週5日ほどで、自由時間は約5時間40分ほど。どちらも世界トップクラス。)

④社会的つながり:人間が本能的に求めているもの
・自給自足を行う農村→親や近所の助け合いが強い→子育てを助け合う→子供を安心して産める。
・近所に信頼できる人が多い。
・近所の助け合いが強い→地域の犯罪率が下がる→治安が良い。
・パートナーがいることで幸福度が上がる。
・友人と頻繁に交流する。
・社会的格差が低いこと→他者との比較文化が薄まる。

⑤安定した環境:人間活動の土台となるもの
・戦争がない。
・自然環境が維持されている→気候変動など生活を脅かす脅威が少ない。


 反対に幸福度が低くなる時は次の時。

幸福度が低くなる要素(ストレスと安心感のなさ)

①経済的不自由:

・低収入。
・住宅費や物価高など生活コストの高さ。

②政治的不自由:
・権威主義体制での生活。
・政治腐敗。
・表現、移動、居住の自由がない。

・不平等。

③文化的不自由:
・長距離通勤。
・労働時間が長い。
・経済機会が少ない。
・社会的格差が大きい→他者との比較文化が強まる。
・交通渋滞、混雑、日常生活のストレス。

④社会的つながりのなさ:
・家族や近所付き合いの希薄化→治安悪化。
・友人との交流が頻繁にない。
・孤独。

⑤不安定な環境:
・戦争。

・自然環境の破壊→気候変動など。


 このように人間は、今も未来にも安心感と自由を感じると幸福感も感じる生き物。貨幣依存と都市化はその反対をいくもので、不安と孤独感、個人主義へと走らせる仕組み。その中で安心感を得るために頑張って仕事をしたり、お金を儲けようとする。資源の略奪戦争すらも、生活の安心を得ようとするため。

 ただ問題は貨幣社会のように奪い合いや競争を根本にしている間は、一時的に勝ち取って安心感を得ても、それを狙われる不安や失う不安に襲われる。よって本質的に安心が持続しない。つまり古代から続く権威主義、貨幣社会、産業文明、資本主義、社会主義のような社会システムは競争を根本としているため、人間の安心を求める心理的本能と構造的に矛盾している。奪い合いや競争をなくし、共有や公平な分配をベースにした格差のない社会システムが人間の性質に適しており、安心感と自由からくる幸福感を感じることになる。


◯無意識から意識的な社会システムへ


 人間は誰もが幸福を求めているが、自然の法則や自我を理解せず無意識に生きていると、先程まとめた「文明の繁栄と衰退のパターン」を辿ることになる。このパターンを解りやすく2段階でまとめると、次のようになる。


⚫︎1段階目:農村
定住と農業・略奪戦争・権威主義・武装化・都市化・王権、官僚制度、軍隊、


⚫︎2段階目:都市

貨幣制度・徴兵制、税制、格差、商業発展、知識や技術の発展、人口の一極集中、TFR低下、自然破壊


 大事なことは人間社会は流れに任せて無意識に生きているだけだと、安心感と自由のない要素にいつでも向かってしまう傾向があるということ。このパターンを理解した上で、意識的に幸福感を感じられる社会システムを築いていく必要性がある。そのために必要な要素が次の表。

持続的な安心感と自由のある社会の要素

原則

具体的内容

目的

資源を公平に分配・共有する

あらゆる資源を地球上の全ての人と公平に分配・共有する。

持たない者による略奪戦争を起こさない。

誠実な人物をリーダーに選ぶ

公平で透明性で信頼性のある統治が行われ、公平な分配・共有も行われる。そのため誠実なリーダーを選び出す選挙制度が必須。

権威主義にならず、戦争も起こさない。

貨幣制度をやめる

貨幣に依存した商業と、そこから派生する様々な問題をなくす。

資源破壊の抑制、格差の解消、比較文化を生まない、幸福度維持、地域のつながりや助け合いを維持など。

街の居住人数の上限を設定

街の規模を一定以上の大きさにしない。都市が生まれないので移住のメリットが少なく、一極集中がなくなる。また家族や友人が近くに住むことが多くなる。

都市化にまつわる不安やストレスがなくなる。地域への愛着が増し、地域のつながりも強く、犯罪率も低く、子育ても安心して行える。

自給自足の徹底

生活用品、食料、住居、乗り物を地域で生産し、無償利用。枯渇資源を使用しない技術を採用し製造。

自給自足のため生活物資に困らない地域循環型社会の確立。持続可能な生活、資源消費抑制。

シンプルな社会システム

ルールを少なくし、世界共通の統治システムで、世界の人々が理解できるシンプルな仕組みで運営。

社会システムを理解できない住民を生み出さず、運営に無頓着になることを防ぐ。

教育

文明の繁栄と衰退のパターンや自我について知る。

無意識に生きると衰退のパターンを辿り幸福度が下がる。法則性やパターンを知ることが、意識的に持続可能な社会を維持する鍵となる。



 世界中の国が完全民主主義になれば幸福度は上がる。ただ北欧諸国でも見られるが、貨幣が存在し自由競争が行われると、商業が発達するので資源が過剰に使用され、環境破壊が進む。つまり貨幣制度そのものをやめなければ、地球という生きる環境を持続させることが難しくなる。すると結局は幸福度が下がってしまう。また貨幣があると利益を求める人々が集まり都市化が加速し、結果的に人々の中で安心感よりも不安が大きくなる。
 貨幣制度には他にもベーシックインカムや地域通貨、暗号通貨などの案もあるが、これも貨幣制度の一部なので利益主義は変わらず、環境破壊も継続され、格差もなくならない。

 また都市化を防ぐため居住人数制限を取り入れたとしても、貨幣制度では競争に勝たなければならないので不効率さが目立ち、やがて撤廃するリーダーが現れ、再び都市化が起こる。


 「持続的な安心感と自由のある社会の要素」を満たした新たな社会システムを本書でまとめることはしないが、それはすでに「持続可能な社会 プラウトヴィレッジ(最新版)」という社会システムでまとまっている。また自我については「自我から意識へ」という文書にまとめている。


 文明が発展していく流れの根底には、人間の自我がある。紀元前9000年頃に起こった資源略奪戦争が、1万1000年経った2020年代にも起こっている。自我と文明の繁栄と衰退のパターンを知ることが、今と将来の世代が同じことを繰り返さないためにも必要となる。

 そして産業文明と資本主義社会の人類がS字カーブの頂点からベル型で衰退していくパターンを辿るのかは、新しい社会システムへ移行できるかにかかっている。


文明の繁栄と衰退のパターン

著者:久保田 啓敬

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