2章① 電子機器 : 持続可能な社会プラウトヴィレッジ 第三版

 ○資源の枯渇問題

 貨幣社会からプラウトヴィレッジを構築していく上で、まず資源について見てみる。それによって何ができて、何ができないかが把握できる。

 研究機関のGlobal Footprint Network(GFN)が作成した「エコロジカル・フットプリント」という一つの指標では、全人類がアメリカ人平均の生活をすれば地球5.1個分の資源が必要と言われている。日本人並の生活でも地球2.9個分というのが参考値となっている。

 現代人の生活に電子機器がかかせないが、これらの素材にはリチウムやコバルトなど産出量が少なく特定の産業に不可欠なレアメタルや、鉄や銅など大量に産出され工業で広く使われるベースメタルが使われている。
 次の表はそれら金属資源を、理論上の枯渇年順に並べたもの。現実的に枯渇する前に鉱山国による輸出制限が行われるので、供給量が減少する可能性がある。また、人口が増えればスマホ・PC・AIサーバーなどの普及が急速に進み生産量が増え、理論上の枯渇年も早まる可能性がある。反対に新規鉱山の発見や技術進歩で枯渇年が遅くなることもある。

 参考にしたU.S. Geological Surveyの資源の国別の埋蔵量のデータには「利用可能なデータがない(NA)」という国もあるので、その場合は下記の表の埋蔵量の部分に「◯◯万トン以上」という表記で下限目安となる。同じく理論上の枯渇年も、分かっている埋蔵量で計算した下限目安の年という意味合いになる。

レアメタル・ベースメタルの理論的な枯渇年目安(2025年度)

資源名

埋蔵量

2024年生産量

R/P比(年)

理論上の枯渇年

使用機材・用途例

AI機器での使用例

スズ (Tin)

420万トン以上

30万トン

14年以上

2039年以降

半田、スマホ・PC基板、航空機部品

AI基板半田、電子接続部

金(Gold)

6.4万トン

3,300トン

19.39年

2044年

電子機器、回路、医療器具、航空部品

AIサーバー配線、電子接続部

アンチモン (Antimony)

200万トン以上

10万トン

20年以上

2045年以降

難燃剤、バッテリー、電子機器

AIサーバー・電子機器難燃材

鉛 (Lead)

9,600万トン

430万トン

22.33年

2047年

電池、配管、放射線遮蔽、電子部品

AIサーバーバッテリー、放射線保護材

インジウム(Indium)

※資料:SCRREEN, 2020年

1.88万トン


827トン
(2013-2016年平均)

22.73年


2048年



フラットパネルディスプレイ、バッテリー添加物、半導体(LED、レーザーダイオード)、赤外線技術

AIサーバーのディスプレイ、基板はんだ、半導体、熱伝導材(サーバー冷却)


セレン (Selenium)

9.2万トン

3,700トン

24.86年

2050年

ガラス製造、顔料、電子機器、太陽電池

AI半導体、センサー、太陽光発電

クロム (Chromium)

12億トン以上

4,700万トン

25.53年以上

2051年以降

ステンレス鋼、合金、耐食性コーティング、航空機部品

サーバー筐体耐食材、AI機器合金

銀 (Silver)

64万トン

2.5万トン

25.6年

2051年

スマホ・PC回路、電子部品、医療器具

AIサーバーCPU・GPU配線

フルオスパー (Fluorspar)

3億2千万トン

950万トン

33.68年

2059年

フッ化物、アルミ製造、製鋼、セメント

AIサーバー冷却剤、電子絶縁材

ニッケル (Nickel)

1.3億トン以上

370万トン

35.14年以上

2060年以降


EVバッテリー、航空機部品、ステンレス鋼、スマホ・PC電池

AI電源・バッテリー材料

テルル (Tellurium)

3.5万トン

980トン

35.71年

2061年

太陽電池、合金、半導体、医療機器

AI太陽電池、半導体安定化

コバルト (Cobalt)

1,100万トン

29万トン

37.93年

2063年

EVバッテリー、スマホ・PC電池、航空機部品

データセンターUPS、AIサーバー・ノートPCバッテリー

ダイヤモンド (Diamond, Industrial)

17億カラット

4,100万カラット

41.46年

2066年

研磨材、切削工具、ドリルビット、電子機器

AIチップ切削工具、冷却システム

銅 (Copper)

約9億8,000万トン

2300万トン

42.61年

2068年

スマホ・PC基板、電線、配線、医療器具

サーバー配線、GPU・CPU電源ライン

タングステン(Tungsten)

460万トン以上

8.1万トン

57年以上

2082年以降


スマホの振動モーター、PC・スマホ基板実装工具、半導体製造装置、精密ドリル

導体製造装置部品、高温センサー、電子機器接点、放熱部品

モリブデン (Molybdenum)

1,500万トン

26万トン

57.69年

2083年

鋼合金、耐熱材、触媒、航空機部品

AIサーバー耐熱合金、電子部品

チタン鉱物濃縮物

(Titanium mineral concentrates

5億6千万トン以上

940万トン

59.5年以上


2084年以降


航空宇宙部品、医療機器、塗料、船舶構造材、スポーツ用品

AIサーバー筐体(軽量・耐食性合金)、GPU/CPU冷却システムの構造材

ボーキサイト・アルミナ (Bauxite and Alumina)

290億トン

4億5千万トン

64.44年

2089年

アルミ製造、航空機部品、電子機器

AIサーバー筐体軽量材、放熱部品

鉄鉱石 (Iron Ore)

2,000億トン

25億トン

80年

2105年

鋼鉄製造、建設材、自動車、機械

サーバー筐体、AIインフラ鉄鋼材

マンガン (Manganese)

17億トン

2,000万トン

85年

2110年

鋼製造、電池、合金、農業肥料

AIサーバー電池材、構造合金

ニオブ (Niobium)

1,700万トン以上

11万トン

155年以上

2180年以降


超合金、航空機部品、医療器具

サーバー筐体・GPU耐熱合金

リチウム (Lithium)

3,000万トン

24万トン

125年

2150年

EV・スマホ・PCバッテリー、医療器具

AIノートPC・サーバーバッテリー、UPS

ヨウ素 (Iodine)

620万トン

3.3万トン

187.88年

2213年

医薬品、写真、触媒、液晶ディスプレイ

AIディスプレイ素材、医療AI機器

黒鉛 (Graphite)

2.9億トン

160万トン

181.25年

2206年

EV・スマホ・PCバッテリー電極、鉛筆、潤滑材

AIサーバー・GPU用電池電極

レアアース(Rare Earths

)※17元素で構成

9000万トン以上


39万トン

230.77年以上


2255年以降


スマホ・PC磁石、蛍光体、自動車モーター

GPU・CPU冷却ファン磁石、ハードディスク磁石

リン鉱石(Phosphate Rock)

740億トン


2億4千万トン

308.33年


2333年

肥料、食品添加物、洗剤、電池

AIサーバー電池材、農業AI用肥料

補足:

・R/P比(年)は埋蔵量 ÷ 年間生産量で計算。


出典:

U.S. Geological Survey (USGS), 2025, Mineral Commodity Summaries 2025 (version 1.2, March 2025): U.S. Geological Survey, 212 p., https://doi.org/10.3133/mcs2025.
MINERAL COMMODITY SUMMARIES 2025, https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2025/mcs2025.pdf

SCRREEN, Indium CRM Factsheet 2020, European Commission, 2023
https://scrreen.eu/wp-content/uploads/2023/01/INDIUM_CRM_2020_Factsheets_critical_Final.pdf?utm_source=chatgpt.com

 理論上の枯渇年が2039年のスズから2068年の銅までの14個の資源が枯渇か供給制限に直面すると、スマホ・PC・AIの製造は深刻な影響を受ける。完全な使用不可に至る可能性は低いが、大幅な性能低下と製造の制約につながる。
 銅の埋蔵量自体は多いが、世界的な電線、電子機器、建設などで大量消費しているため枯渇年が近くなる。


 社会が運営されるために最低限必要な分野に医療、通信、発電、水管理、気象観測がある。これらにもベースメタルやレアメタルが使用されている。その枯渇・使用制限の見込み年をまとめたのが次の表。これは2025年からみた理論上の枯渇や使用制限の見込み年なので、新たな鉱山が見つかったり技術革新で伸びることもあれば、輸出国の政策で縮まることもある。

 2010年、中国はレアアースの輸出規制を強化し、輸出枠を前年の約40%削減した。国際的には供給不安を引き起こし、価格の急騰を招いた。レアアースは17種類のレアメタルを一言で表した言葉で、次の17つが含まれる。
 レアアース(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム)

 2024年のレアアースの埋蔵量は1位が約48.9%の中国、2位は約23.3%でブラジル、3位は約7.7%でインド。レアアースの生産量は1位が約69.2%の中国、2位は約11.5%でアメリカ、3位は約7.9%でミャンマー。レアアースはあらゆる電子機器に使用されているが、その17つのレアメタルを中国に大きく依存しているのが世界の現状となっている。

出典:

U.S. Geological Survey (USGS), 2025, Mineral Commodity Summaries 2025 (version 1.2, March 2025): U.S. Geological Survey, 212 p., https://doi.org/10.3133/mcs2025.
MINERAL COMMODITY SUMMARIES 2025, https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2025/mcs2025.pdf


医療分野

設備・機器名

金属資源の枯渇・使用制限の

理論上の見込み年

影響

MRI装置

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、銀:2051年、セレン:2050年、レアアース:2255年以降

回路・センサー枯渇でコスト高、診断精度低下、設置制限。

CT装置

スズ:2039年以降、金:2044年、銀:2051年、銅:2068年、タングステン:2082年以降、レアアース:2255年以降

X線管球・回路枯渇でメンテナンス難、価格高騰、診断遅延。

人工呼吸器

スズ:2039年以降、金:2044年、コバルト:2063年、ニッケル:2060年以降、銅:2068年、レアアース:2255年以降

バッテリー・回路枯渇で稼働困難、価格高騰、在庫不足。

心電計

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、銀:2051年、銅:2068年、レアアース:2255年以降

電極・回路枯渇でコスト増、診断遅延、導入制限。

超音波診断装置

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、銀:2051年、セレン:2050年、レアアース:2255年以降

センサー枯渇で精度低下、コスト高、診断制限。

血液分析装置

スズ:2039年以降、金:2044年、銀:2051年、セレン:2050年、テルル:2061年、レアアース:2255年以降

センサー枯渇で検査遅延、価格高騰、診断効率低下。

ペースメーカー

スズ:2039年以降、金:2044年、コバルト:2063年、ニッケル:2060年以降、チタン:2084年以降、レアアース:2255年以降

電極・バッテリー枯渇で手術高額化、待機リスト増加。

内視鏡システム

スズ:2039年以降、金:2044年、銀:2051年、銅:2068年、タングステン:2082年以降、レアアース:2255年以降

回路・照明枯渇で手術精度低下、コスト増、検診制限。

X線装置

スズ:2039年以降、金:2044年、鉛:2047年、銀:2051年、タングステン:2082年以降、レアアース:2255年以降

遮蔽材・管球枯渇でメンテナンス難、診断遅延。

人工関節・インプラント

クロム:2051年以降、コバルト:2063年、ニッケル:2060年以降、チタン:2084年以降、レアアース:2255年以降

合金枯渇で手術高額化、患者QOL低下。

歯科用機器

アンチモン:2045年以降、スズ:2039年以降、金:2044年、銀:2051年、銅:2068年、レアアース:2255年以降

電極・難燃材枯渇でコスト高、診療質低下。



電力制御・発電

設備・機器名

金属資源の枯渇・使用制限の

理論上の見込み年

影響

発電所制御システム(SCADA)、配電盤

金:2044年、銀:2051年、レアアース:2255年以降

電力変換効率を上げるため銀・金を使用。供給逼迫でコスト上昇、装置導入制限の可能性。

高効率トランス、変圧器(鉄心合金含む)

クロム:2051年以降、コバルト:2063年、レアアース:2255年以降

高効率変圧器製造にコバルト・クロム合金が必須。代替困難で価格上昇リスク。

発電機(風力・一般)

ニッケル:2060年以降、コバルト:2063年、レアアース:2255年以降

高効率・軽量化のためニッケル・コバルトを使用。供給リスク高、コスト増。

電力貯蔵(リチウムイオン電池・コバルト系電池、BMS)

ニッケル:2060年以降、コバルト:2063年、リチウム:2150年、レアアース:2255年以降

EV・蓄電池の普及で需要急増。代替技術の開発が急務。

電力変換装置・インバーター(パワー半導体、トランジスタ、高性能電子部品)

金:2044年、銀:2051年、銅:2068年、レアアース:2255年以降

高性能部品に銀・金・銅を使用。供給逼迫でコスト増、装置導入制限の可能性。



水管理・衛生技術

設備・機器名

金属資源の枯渇・使用制限の

理論上の見込み年

影響

浄水場センサー(pH、導電率、濁度など)

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、レアアース:2255年以降

高感度センサーの回路・はんだ・透明電極に希少金属使用。枯渇で保守・更新困難、コスト増大。

自動塩素注入装置

スズ:2039年以降、金:2044年、銀:2051年、レアアース:2255年以降

制御基板や接点に金属資源を使用。供給逼迫で装置導入・更新コストが上昇。

殺菌装置(銀イオン生成器)

銀:2051年、レアアース:2255年以降

銀の抗菌効果を利用。代替技術(銅イオンや光触媒など)が普及しなければ、供給制限による稼働制約の可能性。

紫外線殺菌ランプ

タングステン:2082年以降、レアアース:2255年以降

電極にタングステンを使用。供給制限でランプ寿命や交換コストに影響。

水質モニタリング装置

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、銀:2051年、レアアース:2255年以降

センサーや基板に多様なレアメタルを使用。複数資源の同時逼迫で維持コスト増大、更新困難化の恐れ。



気象・防災観測

設備・機器名

金属資源の枯渇・使用制限の

理論上の見込み年

影響

地震計(センサー部)

スズ:2039年以降、テルル:2061年、銅:2068年、レアアース:2255年以降

高感度計測に不可欠な回路・センサーに希少金属使用。枯渇で精度維持や保守・交換コストに影響。

気象センサー(温度・湿度・風速・気圧)

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、銅:2068年、レアアース:2255年以降

高性能センサー回路・接続部品に希少金属使用。供給制限により精度低下・保守困難の可能性。

早期警報システム(無線送受信機含む)

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、レアアース:2255年以降

通信機器に不可欠な回路・基板金属使用。供給逼迫で運用・拡張が制限される可能性。

衛星観測機器

スズ:2039年以降、金:2044年、インジウム:2048年、テルル:2061年、銅:2068年、レアアース:2255年以降

衛星用高感度センサー・通信部品に希少金属使用。材料不足で運用制約や更新費用増大の恐れ。

海洋観測ブイ

スズ:2039年以降、インジウム:2048年、銅:2068年、レアアース:2255年以降

長期耐久性が求められる回路・センサーに希少金属使用。供給不足で保守・更新費用増加のリスク。



 また、日々使用するスマホやPC(パソコン)1台に必要な元素は50〜60種類で、レアメタルはスマホで20〜25種、PCで25〜30種。そのうち2090年までに枯渇が懸念されている主要金属やレアメタルは、次のようになっている。

スマホ

枯渇・使用制限の

理論上の見込み年

備考・背景

コンデンサ、電子部品

スズ:2039年、金:2044年、インジウム:2048年、銀:2051年、テルル:2061年、コバルト:2063年、ニッケル:2060年、レアアース:2255年以降

回路部品に不可欠。微量のレアメタル・半導体材料や透明電極、はんだに使用。供給限界で価格上昇の可能性。

液晶ディスプレイ透明電極

金:2044年、インジウム:2048年、レアアース:2255年以降

生産量少なく、需給逼迫が懸念される。蛍光体や偏光板、導電膜に希少金属使用。

半導体材料

金:2044年、セレン:2050年、銀:2051年、レアアース:2255年以降

電極や配線に使用。高性能半導体には微量レアアース・希少元素添加。供給逼迫でコスト増。

半導体、太陽電池材料

セレン:2050年、テルル:2061年、レアアース:2255年以降

太陽電池用に需要増。蛍光体や誘電体、半導体安定化に使用される。

半導体・電子部品

金:2044年、インジウム:2048年、銀:2051年、レアアース:2255年以降

電極や配線に使用。高性能電子部品に希少元素微量添加で性能向上。

磁石(スピーカー、振動モーター)

ニッケル:2060年、コバルト:2063年、レアアース:2255年以降

磁性材料として重要。ネオジム磁石などの高性能磁石に使用。供給制限でコスト増。

リチウムイオン電池正極材料

ニッケル:2060年、テルル:2061年、コバルト:2063年、リチウム:2150年、レアアース:2255年以降

EVや蓄電池に必須。正極添加材や電解液に希少金属微量使用。供給は特定地域に偏りリスク大。

高性能部品(磁性・超伝導)

フルオスパー:2059年、ニッケル:2060年、テルル:2061年、コバルト:2063年、レアアース:2255年以降

高性能部品に必要。蛍光体、磁性部品、超伝導体に使用。供給制限で価格上昇リスク。


 またバッテリーに使用されるリチウムの枯渇目安年は2150年となっているが、リチウム単独ではバッテリーとして機能しにくい。2025年時に主流のリチウムイオン電池はリチウム+ニッケル+コバルト+マンガンやリチウム+コバルトといった組み合わせが基本。リチウムは残っていても、相棒元素であるニッケル・コバルトが2060〜2063年になくなると、従来の高エネルギー密度電池は作れなくなる。

 こうしてスマホやPCへは、段階的に次のように生産に影響を与える。

理論上の見込み年

影響範囲・主な制約

2040〜2050年

半田、配線、透明電極、回路部品などの希少金属制約 → 生産コスト上昇、部分的制約

2060〜2070年

ニッケルやコバルトの不足でリチウムイオン電池(スマホ・PC・EV用)の製造制限。磁石(スピーカー・振動モーター)、配線(銅)などの制約 → 大量生産困難、性能低下リスク

2080年以降

タングステン(振動モーター・基板実装工具)、モリブデン(耐熱合金)、チタン・アルミナ(筐体・構造材)の供給制約 → さらなる生産制約、コスト増大

2090年まで

ニッケル、コバルト、銅、フルオスパーの制約が本格化 → 大量生産維持が難しい局面に入る

2150〜2250年

リチウム、レアアース枯渇 → バッテリー、磁石、モーター系の深刻制約、大量生産はほぼ不可能

 つまり一家に1台PCや1人1台スマホの大量所有モデルは、資源枯渇や環境負荷、電子廃棄物の観点から持続不可能となっている。それが2040年頃から段階的に訪れ、主要な産出国が輸出規制を強化することで、製造業全体に深刻な制約が及んでいく。以後はコスト急騰、国際紛争、リサイクルの限界に直面し、全員が使える技術ではなくなる。とくにスマホは平均寿命2〜3年での買い替えが前提で、設計そのものが持続可能性と矛盾している。つまり今のような高性能・高消費電力のレアメタルを使うあらゆる電子機器は時代の一時的な技術で、最終的に使用できなくなる技術でもある。よって100年先、1000年先まで持続できず、もっと早い段階で供給が困難になる。仮に代替素材による技術継承で一時しのぎはできても、結局永続的ではなく、資源が無くなるまで使い続けるだけになる。そして技術革新が起こるかは予測できず、保証もされない。

 またベースメタルやレアメタル以外にも、石炭は2160年頃、石油は2075年頃、天然ガスは2070年頃に事実上の枯渇状態に近づくと見られる。

2020年時点の化石燃料の埋蔵量の残り年数

https://ourworldindata.org/grapher/years-of-fossil-fuel-reserves-left

 石油と天然ガスの枯渇・供給制限は、輸送・建設・電子機器・家電・通信・農業・化学製品・医療・電力・水管理・防災・消費文化など、ほぼすべての産業・生活分野に波及し、製造・運用・維持の制約やコスト増、持続可能性の喪失を引き起こす。このように資源の埋蔵量で見ると、2040年頃から段階的にコストや製造数で悪化していくだけとなっている。

 また砂は水に次いで世界で二番目に多く利用される資源で、建設資材として利用されることが多い。2022年の国連環境計画(UNEP)の報告書では、毎年使用される砂と砂利の量、地球を囲む幅27メートル、高さ27メートルの壁を築くのに十分な量と指摘している。河川や沿岸、海洋生態系から砂を採取すると、浸食、地下水の塩害、高潮防護の喪失、生物多様性への影響が生じ、水供給、食料生産、漁業、観光産業などの生計に脅威が及ぶ可能性があるとしている。

出典:
Our use of sand brings us “up against the wall”, says UNEP report, UNEP

https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/our-use-sand-brings-us-against-wall-says-unep-report?utm_source=chatgpt.com


 この主要資源の枯渇問題が一般市民に伝わりにくい構造的な理由は次の通り。


1. 問題が専門的で複雑
 各資源は分野が異なり、どの資源がいつ、なぜ、どの分野で不足するかという複合的な理解が求められるため、一般市民には直感的に理解しにくい状況となっている。

2. 企業は利益を優先しがち
 資源の供給不足や価格高騰が表面化すると、自社製品の製造コストが上がり利益が減るリスクがあるため、こうした問題が大きく報道されたり話題になることを避けようとする傾向となっている。
 また、価格が上がることで消費者の購入控えが起こる可能性もあり、短期的には問題を隠したり軽視する構造となっている。
 これは、企業が利益最大化を目的とし、市場競争の中で利益減少のリスクを抑えようとする自然な反応となっている。

3. 政治は短期的成果を優先
 政治家は選挙で支持を得るため、すぐに結果が出やすい経済成長や雇用対策を優先する傾向となっている。
 さらに、産業界や関連団体からの影響を受けやすく、資源問題に関する抜本的な対策は後回しになっている場合が多い。
 ここで言う「影響を受けやすい」とは、特定の業界や団体が政策決定に働きかけを行い(ロビー活動)、自分たちに不利な規制や措置を避けるよう圧力をかけることを指している。

4. メディアは注目されやすい話題を優先
テレビや新聞、ネットニュースは視聴者や読者の関心を引きやすい災害や事件、芸能ニュースなどを中心に報道しがちで、専門的かつ長期的な資源問題は取り上げられにくい傾向となっている。

5. 消費者が問題を実感しにくい
 生活の裏側で大量の資源が使われていることに気づきにくく、例えば服1着の製造に大量の水が必要であることや、スマホが多くの希少金属を使っていることを実感しにくい状況となっている。
 また、製品価格に資源の希少性が十分に反映されていないため、「まだ買える=問題がない」と誤解されやすい構造となっている。

コメントを投稿

0 コメント