2章② 電子機器 : 持続可能な社会プラウトヴィレッジ 第三版

 

○ミッドテック

 地球の資源的にレアメタルを使うハイテク技術は使い続けられない。よってプラウトヴィレッジでは、ハイテク(高度技術)とローテク(手動)の中間にあるミッドテックの機器が中心となる。

技術区分

特徴

ハイテク

資源依存・電力依存が高い

スマホ、AI家電、EV車

ミッドテック / 適正技術

地域維持可能で再生可能

電子黒板、自動給水タイマー

ローテク

極めて単純、資源不要

かまど、手押しポンプ、足踏みミシン


 プラウトヴィレッジでのミッドテックは次のようなもの。

視点

内容

技術レベル

高度な加工や電子制御は基本使わず、電子制御を用いる場合でも、比較的シンプルで地域レベルでの修理・維持管理が可能な設計とし、必要最低限のテクノロジーにとどめる。

修理性

ユーザー自身や地域内で修理可能。モジュール交換や分解がしやすい。

資源負荷

レアメタルや化石燃料は基本使用せず、使っても微量。地産資源を活用。

長寿命性

10年〜100年スパンで使える。

再現可能性

地域単位での製造・導入が可能。中央集権的インフラに依存しない。



○レアメタルフリーの個人端末


 現代のスマホは資源的に見て持続可能ではない。よってプラウトヴィレッジでは、希少金属を使わないレアメタルフリーで、低スペックでも用が足りる設計を目指すことになる。そのなかで日常的に使う個人端末の設計は次のようなものになってくる。

レアメタルフリーの個人端末 設計概要(100億人利用前提)

項目

内容・仕様詳細

主な機能

・テキスト送受信(短文・ローカルHF無線・LoRa・有線メッシュ)

・音声通話(低帯域・圧縮)

・災害時メッセージ中継対応

通信方式

・レアメタルフリーHF無線(3〜30MHz短波)による地域間通信

・超低消費LoRa/BLE(近距離)

・銅線、アルミ線を用いた有線接点通信(地域内メッシュネットワーク)

・地域中継PC同士はHF無線アンテナ網で接続し分散型通信網を形成

・必要に応じて低レアメタル衛星通信や光通信を部分併用の可能性あり

ディスプレイ

・金属メッシュ電極を使った反射型セグメント液晶(アルファベット、平仮名・カタカナ・数字・記号表示など。)

入力装置

・物理キーパッド(機械式スイッチ)

・シンプルマイク、スピーカー(フェライト磁石または圧電素子)

通知手段

・文字表示による通知

・物理振動モーターまたは圧電素子による触覚通知

・音声やブザー通知(省電力設計で必要時のみ)

ボディ素材

・鉄、アルミ、銅

・竹繊維樹脂

・防水・耐衝撃・耐熱設計

電源

・マグネシウム空気電池(非レアメタル)
・手回し/足踏み発電端子付き

電子部品・回路

・アナログ主体の簡易回路

・トランジスタは有機系またはシリコン系で極小半導体使用

・モジュール交換式で修理容易

・レアメタルは0〜0.01g未満に抑制(製造過程で微量混入の可能性あり)

表示UI

・1〜4行テキスト表示
・1行あたりの文字数約6〜8文字、表示行数(縦方向)3〜4行程度

・メニュー選択および文字入力は物理操作中心

拡張性

・独自接点通信による端末間データ共有

・自治体PCとの連携による外部通信

・地元向けアプリ(広報・災害通知)実装可能

記録装置

・個人端末はポケベル型の「一時記憶のみ」で設計

・メッセージは数件〜数十件のみ保存、新着時に古いものから自動消去

・ハードディスクやSSD等の大容量ストレージは非搭載

・恒久的保存が必要なデータは中継PC・紙・非電子媒体へ分散

修理・保守性

・工具1本で分解可能

・モジュール単位で部品交換可能

・地域工房

・自治体が修理を担う体制

使用寿命

・物理的本体寿命20年以上

・修理、アップグレードで50〜1000年の長期運用を想定

資源使用方針

・レアメタル完全不使用または0.01g未満

・鉄、銅、アルミ主体

・リサイクル素材率90%以上

年間製造上限目安

・100億人分新規製造でも鉄、銅資源の1〜2%未満消費

・徹底した回収・再利用で事実上無限の資源循環を実現

社会的運用

・村や自治体に通信中継センター設置
・[個人端末] ←メッシュ、無線・有線通信→ [地域中継PC] ←HF無線アンテナ網→ 他地域中継PC→世界

・分散型通信網により、中央集権的インターネット網に依存しない
・災害時生存インフラとして機能

デザイン美学

・厚め、重め(12cm×6cm×2.5cm、約250g)

・1990年代後半〜2000年代初頭の携帯電話風

・修理、長寿命前提のシンプル構造


 次に世界100億人分作った場合の必要金属量。

素材

想定使用量/台

総使用量(100億台)

地球上の可採埋蔵量の中での割合

約150g

約150万トン

約0.00075%(可採埋蔵量:約2,000億トン)

約30g

約30万トン

約0.03%(可採埋蔵量:約9億8,000万トン)

アルミニウム(ボーキサイト・アルミナ)

約30g

約30万トン

約0.0103%(可採埋蔵量:約290億トン)


 さらに、使い終わった後も、モジュール分解で資源90%以上を回収可能。使用済み部品を地元で再加工し、永久的な端末更新サイクルを構築する。この端末ならレアメタルの枯渇問題は完全に回避できる。また、鉄・銅・アルミ主体の素材サイクルを循環可能にしておけば、1000年以上の通信端末の維持も現実的。そして全人類が「最低限のつながり」を公平に持て、情報過多にならない。これは修理や再利用を前提とした設計思想となり、自治体で製造できるレベルになる。



○レアメタルフリーの通信用HFメッシュネットワーク


 現代のインターネットの通信設備の持続不可能性(家庭・国・世界)は次のようになっている。

レベル・視点

家庭

国レベル

世界レベル

資源面の問題

・レアメタル含有パーツを使い捨て

・資源輸入依存率が高い(特にレアメタル)

・レアメタルの分布が偏っている


・素材の出どころを意識しない

・再資源化技術の遅れ

・採掘の環境負荷が大きい

設計思想の問題

・短期寿命設計(2〜5年)

・グローバル市場競争のため高速製品サイクルを優先

・廃棄前提で大量生産、大量消費モデル


・買い替え前提ビジネスモデル



エネルギー面の問題

・常時接続+高解像度+動画中心

・データセンターや5Gなど大量電力消費型に偏重

・インフラの一部(海底ケーブル・衛星)は莫大な維持費が必要


・待機電力も高負荷



保守・修理面の問題

・部品交換不可 or 非推奨

・製造設備や部品が海外依存

・老朽化ケーブル

・設備の更新が困難



・メンテナンス人材が都市集中


政治・地政学的リスク

×(政治的影響は小さいが)国際供給網に依存

・供給国との関係悪化リスク

・資源争奪、デジタル覇権競争(地政学リスク)



・国際的価格変動の影響大

・サプライチェーン寸断の脆弱性


 また通信設備もレアメタルを使用しているので持続可能ではなく、仕組みを見直す必要が出てくる。

通信装置・部位

使用されるレアメタル

用途・役割

基地局・アンテナ

インジウム、ガリウム、スズ

高周波アンプ、電波の送受信装置、半導体素子に使用。

光ファイバー通信機器

エルビウム、テルビウム

光信号の増幅に必要なドープ材。

ネットワークスイッチ/ルーター

金、銀、パラジウム、タンタル

高速信号伝達、コンデンサ、はんだ材など。

PCB(プリント基板)

金、銀、銅、パラジウム、ビスマス

導電性・耐久性・接触信頼性の向上。

電源供給装置・バックアップ電源

コバルト、リチウム、ニッケル

バッテリー・UPS(無停電電源)に使用。

データセンター/サーバー

タンタル、レニウム、ネオジム

耐熱性、強磁性、冷却部品に必要。


 これらを踏まえ1000年以上持続するために次の考えを土台にする。

・レアメタルの使用最小化と完全なリサイクル体制
・修理・再利用を前提とした設計(モジュール式、共通部品)
・自然エネルギーで駆動可能な低消費電力設計
・地域自立型のミッドテック通信(例:光ファイバー+ローカルメッシュ)
・世界的な資源協定とフェアな分配ルール

 こういったこともあり世界中のプラウトヴィレッジ間での少量データの通信ネットワークは、まずレアメタルフリーのHF無線による分散型のメッシュネットワークとなる。


 レアメタルフリーのHF無線(短波)とは、希少な金属を使わずに銅やアルミ、フェライトなど豊富にある資源で作られた送信機とアンテナを用い、3〜30MHzの高周波帯の電波を利用した通信システム。この短波の電波は空の上の電離層で反射し、地球の曲面を越えて遠くまで届くため、村や拠点間でテキストデータを送受信できるようになっている。送信機は電気信号を高周波の電波に変換し、受信機はその電波を元の信号に戻す仕組みとなっている。

 アンテナは竹や木の支柱に銅線やアルミ線を張ったシンプルな構造で、電波を効率よく放射・受信できるよう設計される。電力はマグネシウム電池などの自然エネルギーで賄い、省電力設計により持続可能な運用が可能となる。さらに、中継局が受信したデータを再送信することで、より遠くの拠点へ情報を届けることができるため、リアルタイム性を求めないテキスト通信に適した持続可能な社会インフラとして有効となっている。村や拠点が点(ノード)で、それらがたくさんの道(通信経路)で繋がり、どの道も使えるから柔軟に行き先を変えられるイメージとなる。

中継地点の間隔の目安

通信方式・環境

中継間隔の推奨範囲

理由・特徴

HF無線(短波)

数百km〜数千km程度

電離層反射を利用し長距離通信が可能だが、安定性確保に分割が必要

VHF・UHF帯などの短距離帯

数十km〜数百km程度

直線視程通信のため、地形や障害物の影響を受けやすい

山間部・森林など遮蔽多い地域

数km〜十数km程度

地形による電波遮断を防ぐため、より密に設置

平坦地・都市部

10km〜数十km程度

電波遮蔽は少ないが建物などの影響を考慮



 またHF帯(3~30MHz)は通信速度が非常に低く、データ送信に時間がかかる。各ノードがリレー的に中継する構造なので、渋滞や順番待ちが起こりやすい。一斉送信すると全体がダウンするリスクがあるため、送信間隔に「ゆとり」を持たせる必要はある。


送信間隔の目安

通信タイプ

送信間隔の想定

近距離・村内通信

数分〜10分に1回程度

地域間中継通信

30分〜数時間に1回程度

大陸間通信(例:日本⇔イギリス)

数時間〜1日数回程度



 このHFメッシュネットワークは自治体や地域レベルでの基本的かつ持続可能な通信インフラで、主にテキストや通話などの最低限の情報交換を行うもの。これだけで自立して運用でき、低エネルギーでレアメタルフリーの設計。また長距離のラジオ放送も行われることになる。



○共有PCとマイクロ波中継網のインターネット

 HFメッシュネットワークと同時に自治体に数台の共有PC(中継PC)と、そのインターネット網も構築する。自治体ごとに設置される共有PCが情報処理や大量データの蓄積を担い、自治体間ネットワークを形成する。またHFメッシュネットワークと連携し、地域間の情報伝達や個人IDの認証も行う。

 ただPCはレアメタルの使用率が高いため、自治体ごとに数台程度の設置になる。「地球の人口104億人÷平均5万5000人の自治体=約18万9000個の自治体」となるので、共有PCの製造数も約18万9000個が最低限の数となり、必要に応じて台数を少しだけ増やす。この共有PCの量でレアメタルの持続可能性をまとめたのが下記の表。


​​18万9000個の共有PCでのレアメタルの持続可能年数

金属名

1台あたり使用量

総使用量

(18.9万台)

埋蔵量

総使用量の割合(%)

持続可能年数

アルミニウム

約300 g

約56.7トン

約290億トン

約0.00000000195%

約5.11億年

ニッケル

約20 g

約3.78トン

約1.3億トン以上

約0.000000290%

約3,439万年

コバルト

約5 g

約0.945トン

約1,100万トン

約0.0000000859%

約1,157万年

タンタル

約2 g

約0.378トン

データなし

計算不能

計算不能

インジウム

約1 g

約0.189トン

約1.88万トン

約0.00001%

約9.95万年

レアアース類

約5 g

約0.945トン

約9,000万トン以上

約0.0000000105%

約9,524万年

約1,500 g

約283.5トン

約2,000億トン

約0.00000000141%

約7.05億年

約0.5 g

約0.0945トン

約6.4万トン

約0.0000014%

約67.7万年

約15 g

約2.835トン

約64万トン

約0.0044%

約225年

約1,000 g

約189トン

約9.8億トン

約0.000000192%

約518万年


 この中では銀の持続可能年数が低いので、代替素材に銅を使うなどの対応がいる。


 2025年には世界のインターネットのデータ通信の90%以上は海底ケーブルを通って行われており、衛星から無線で行われ始めている段階。衛星はレアメタルの使用量が多く海底ケーブルは規模が巨大で高コストとなっている。そこでマイクロ波中継網がプラウトヴィレッジの優先設備になる。


通信インフラの比較(世界規模ネットワーク全体)

項目

マイクロ波中継網

海底ケーブル

インターネット衛星

(例:スターリンクなど)

主なレアメタル

ガリウム、ネオジム、サマリウム、タンタル、インジウム

鉛(重金属)、ごく少量の希少金属(限定的)

リチウム、バナジウム、ガリウム、インジウム、ネオジム、タンタル、他多数

製造台数

(世界全体)

数百〜数千台(中継局×2台)

陸上の主要中継拠点

陸揚局:約100〜200局(主要拠点)、延長ケーブル全長:約40万km以上

数万機(例:42,000機計画)

一装置あたりレアメタル量

数グラム〜数十グラム

ごく少量(単位ケーブルあたり)

約300kg超(1機あたり)

レアメタル総消費量(世界全体)

数百グラム〜数キログラム

数十キログラム未満

数百トン規模

電源

自然エネルギーを検討

陸揚局は商用電源

軌道上は太陽光だが打ち上げ時に化石燃料が必要

交換頻度

10〜20年程度

20〜25年

5〜7年で寿命 → 継続的な打ち上げが必要

設置の自由度

高い(陸上で見通しが取れれば可)

海底地形・国際交渉に強く依存

軌道制御・周波数干渉・政治的問題あり

環境破壊リスク

ごく小さい

限定的(局所的影響)+敷設時の騒音・攪拌

宇宙ごみ問題・衛星落下の懸念

規模・コスト面

中規模。設置・維持コストは比較的低め。

非常に巨大。敷設船・国際交渉・長距離ケーブルで高コスト

巨大。大量衛星製造・頻繁な打ち上げが莫大な費用に

維持管理

比較的容易。局所的な交換・修理可能。

難易度高い。故障時の海底修理は高コスト・長期間

高コスト。寿命短く衛星交換は打ち上げ依存。地上設備も必要。



 このインターネットのデータ送信にはマイクロ波無線通信を使用する。

マイクロ波無線通信

項目

内容

周波数帯

1GHz〜100GHz(主に6GHz~80GHz)

通信速度

数十Mbps~数Gbps(距離や設備による)

直線距離

約50km前後(見通し前提)

必要設備

パラボラ型アンテナ、中継装置、電源

代表例

携帯電話の基地局間通信、アフリカの長距離ネットワーク


 マイクロ波は中継局が必要になる。地上であれば設置していけるが、海を渡っての送信は島と島に中継局を設置することになる。次の表は地球上で陸と陸の距離が長い場所。


大陸間マイクロ波通信網:島々への中継局設置区間例

区間・地域例

中継区間距離の目安

中継局設置の必要性・ポイント

備考

北海道〜カムチャツカ(ユーラシア大陸付近)

50km、80km

見通し距離を考慮し2〜3区間に分割。山頂や高台に設置必須。

難所は多いが島・陸地が点在しているため中継可能。

フランス北部〜イギリス(ロンドン付近)

40km、50km

海峡幅が狭く複数区間に分割。比較的設置が容易。

海底ケーブルも併用されること多い。

インドネシア〜オーストラリア北部

60km、80km、100km

島々に複数中継局設置が必須。3〜5区間に分割してリレー。

島が密集しているため比較的設置しやすい。

アリューシャン列島(島内最長区間)

40km、80km

島の高所に設置し複数区間に分割。気象条件も考慮が必要。

地形が険しいため設置場所選定が重要。

アリューシャン列島東端〜アラスカ本土

50km、50km

海上見通し良好。2区間に分割し中継局設置。

比較的設置しやすく通信品質も安定。

南太平洋諸島間(例:フィジー〜トンガ)

40km、60km、80km

島々に多段階の中継局設置が必要。電源確保も重要。

広範囲に分散し島間距離が長い地域。

カリブ海諸島間(例:ジャマイカ〜バハマ)

30km、50km

多くの小島が密集。短距離多区間での中継が現実的。

高度な中継設備設置で通信安定化が可能。



 こうしてよほどの技術革新がない限り、プラウトヴィレッジでは個人用インターネットは廃止となり、共同利用・自治管理された知的窓としてインターネットを残す形になる。その1台で下記のことを行う。


1台の共有PCで行う主要機能

分野

機能

備考

① 自治・選挙

・住民ID認証

・推薦選挙

オフラインでも署名付き投票 → メッシュで集計可

② 医療

・医療履歴の閲覧、更新、データ保存


③ 通信・連携

・マイクロ波/HFメッシュネットワークの拠点管理

・他自治体と通信

中継装置を制御・管理する役割

④ 防災・連絡

・天気予報
・リアルタイムな連絡(避難・警報)

非常時はテンプレート送信も可能

⑤ インフラ管理

・発電状況

・上水道の流量・圧力管理

センサーと組み合わせれば、制御と記録の両方をカバー可能



 こういった通信端末の年代イメージとしては、1995〜2000年頃の携帯電話とパソコンの時代に戻るというイメージになる。


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