2章⑥ 電子機器 : 持続可能な社会プラウトヴィレッジ 第三版

 

AI

 現在のAI(人工知能)の多くは、GPU(ジーピーユー)という大量の計算を並列に高速処理するためのチップを使っている。GPUにもレアメタルが使用されており、次の通り持続可能性で問題がある。


AIのGPUに関する主な問題点一覧

観点

内容

持続可能性への影響

レアメタル使用

ガリウム、タンタル、ネオジム、セリウム、インジウム、パラジウムなどを多用

枯渇リスクが高く、採掘による環境破壊や人権問題を伴う

銅の多量使用

ヒートシンク、基板、配線などに大量の高純度銅が必要

世界の銅需要を圧迫し、リサイクルにもエネルギーが必要

電力消費(運用時)

AI用GPU1枚で最大350〜700W、サーバー全体では1〜3kW以上

データセンター全体の電力負荷が増大し、地域電力網にも影響

冷却負荷

高発熱のため、冷却装置・空調設備が必須

電力消費にさらに上乗せされ、効率が低下

製造時のエネルギー投入

半導体の精製、クリーンルーム、材料製造などに大量のエネルギーが必要

ライフサイクル全体で見たCO₂排出量が非常に高い

リサイクル困難

チップが小型・複雑化し、レアメタルの分離が難しい

現在の技術では回収効率が低く、廃棄が多い

利用の集中と偏在

GPUは一部の大手企業や特定国に集中(例:NVIDIA、アメリカや中国)

技術・資源・情報の集中により、格差や地政学リスクが拡大



 現時点ではプラウトヴィレッジへのAIの導入は考えていないが、AIそのものは有益な技術で、持続可能な科学の発展などにも貢献する可能性がある。ただそもそもレアメタルの問題から個人所有のPCはなくなり、共有PCを自治体に1台置く程度になる。よって全員が常時使える技術ではなくなる。その上で、最低限の利用として導入するとなった場合、プラウトヴィレッジのAIは次の内容を目指すことになる。

項目

プラウトヴィレッジの非中央集権AI

現在の営利企業AIシステム

管理・運営主体

地域自治体やコミュニティがサーバーと運営を管理

巨大テック企業(Google、Meta、OpenAIなど)が一元管理

システム構造

非中央集権的・分散型

中央集権型・クラウド集中型

ソースコード公開

完全オープンソースで誰でも検証・改善可能

多くが非公開、ブラックボックス化されている

データ管理

地域内で分散管理しプライバシー保護強化

大量のユーザーデータを集中収集し活用・商用利用

プライバシー・透明性

高透明性、ユーザーが自分のデータの扱いを把握可能

透明性が低く、利用者がデータの取り扱いを完全には把握できない

利益追求の動機

地域の持続可能性と公共利益優先

収益最大化、株主利益優先

システムの適応性・柔軟性

地域ニーズに合わせたカスタマイズが可能

汎用性重視で、地域特性への対応は限定的


 プラウトヴィレッジでの「信頼できるAIとは何か?」という問いに対しては、「非営利」×「オープンソース」×「透明性」となる。

要素

理由

オープンソース

コード・仕組み・データ利用の透明性があり、誰でも中身を検証できる

非営利

利益最優先ではないため、広告・国家・大企業に都合のいいバイアスがかかりにくい

透明性

意思決定・開発プロセスが公開され、外部の監視が効きやすい



 もし営利企業のAIがオープンソース化されればそれで良いが、そうでない場合は次のものが案になる。

ツール名

主な特徴

オープンソース

非営利・公共性

透明性

GPT-J / GPT-Neo

自然な文章生成が得意

あり

高い(EleutherAIは非営利系)

高い(学習過程公開)

BLOOM

多言語対応・公共研究プロジェクトから生まれたモデル

あり

高い(BigScienceプロジェクト)

高い(学習データ・手順公開)

Rasa

会話型AIを自由に構築できるプラットフォーム

あり

高い(MITライセンス)

高い(全コード公開)

Hugging Face Transformers

多様なAIモデルを柔軟に使える土台ライブラリ

あり

中程度(企業は営利だが文化は公共寄り)

高い(運営プロセス・貢献も公開)

DeepPavlov

教育やFAQ型AIに特化した会話AIライブラリ

あり

中~高(ロシアの研究機関が開発)

中~高(部分的に学習データ非公開あり)


 またAIは電力消費量が大きいので、プラウトヴィレッジでは下記が優先的にAI利用を考える分野となる。


優先度が高い事項

医療、健康診断など


その他の検討事項

世界中の町会の起こりうる問題と問題解決方法をまとめて参考にできる機能
●自治体住民の意見を募集し集約して、リーダーが参考にできる機能。 


○オープンソース化への未来シナリオ


 通信用HFメッシュネットワークはミッドテックでレアメタルフリーだが、共有PCはインターネットに接続して行う。そのため半導体など高度な製造技術がいる。ただ貨幣社会ではこの技術が少数企業の独占状態にある。プラウトヴィレッジ単体でこの技術を導入することはできないので、まずミッドテックの個人端末や通信ネットワークを広げていく。そしてプラウトヴィレッジが広がり貨幣社会が縮小していくと同時に、半導体技術などのオープンソース化への圧力が高まっていくと予測する。次はその未来シナリオ。


【フェーズ1】現状と初期構築期(今〜30年)


⚫︎現代の巨大半導体企業が主導する技術集中状態
・半導体の製造は超巨大工場や設備が必須で、一部の大企業が独占状態。
・資源依存(レアメタル)と環境負荷が大きく、持続可能性に課題あり。

⚫︎プラウトヴィレッジモデルの地域通信用ミッドテック通信ネットワークの構築開始
・限定的機能(通話・テキスト中心)のミッドテック端末導入。
・低帯域・省資源のネットワークを自治体単位で設計・運用。

⚫︎自治体レベルでの端末製造・リサイクル試験開始
・先進技術よりもシンプルで耐久性重視の設計を採用。
・資源効率・リサイクル重視の運用モデル構築。

【フェーズ2】転換期

⚫︎貨幣経済の縮小と共有経済の拡大
・プラウトヴィレッジの自律分散型社会モデルが広がり、従来の営利優先経済は縮小。
・物質的豊かさより持続可能な社会構築が重視される。

⚫︎半導体企業の収益悪化と技術公開の圧力増加
・新規投資が減り、従来の巨大生産体制の維持が困難に。
・社会的圧力や政策介入により、半導体技術の部分的オープン化や共有化が進む。

⚫︎半導体技術の段階的地域移転と共有開始
・技術ライセンス、ノウハウが国際協力や世界連邦的な枠組みで共有される。
・自治体レベルでの高度な共有PC製造が可能になり始める。

【フェーズ3】成熟期

⚫︎完全な技術共有と持続可能インフラの確立
・半導体製造技術は世界連邦などの協調体制で平等に分配・管理。
・環境負荷を最小化する製造方法が標準化される。

⚫︎地域単位で自己完結的に通信機器を製造、維持
・高度なリサイクルと資源循環が日常的に行われる。
・資源の偏在は世界連邦の公平配分ルールにより解消。

⚫︎プログラミングやソフトウェア知識も教育機関で恒常的に伝承
・技術・知識の継承システムが整い、個人から地域全体へ共有される。

【フェーズ4】長期維持・進化期

⚫︎技術はオープンソースかつ持続可能な形で管理
・技術の独占はなく、人類共通の財産として扱われる。
・資源循環型社会と融合し、ハード・ソフトともに長寿命化、メンテナンス重視。

⚫︎通信ネットワークは自律分散型で冗長化され、環境変動や災害に強い
・低帯域通信中心でエネルギー効率も最適化。

⚫︎知識伝承と技術革新は持続的に行われ、持続可能な資源適用への研究開発が進む

・人類の社会的進化に寄与


 これらは、今のままの経済・技術モデルを続けると、資源枯渇や環境破壊、技術の独占によって長期的な持続は難しいという現状認識に基づいている。
 資源の枯渇問題は、国境を越えたグローバル課題であり、各国が単独で対応することは極めて困難となっている。医療機器、通信インフラ、発電設備、水管理、防災観測といった重要な設備は、どの国においても必要不可欠であり、その基盤となるレアメタルなどの安定供給は世界共通の課題である。これらの設備は高度な技術力を要し、また素材面でも代替困難なものが多く、自治体レベルでの対応は極めて難しい。
 このため、代替素材の開発やリサイクル技術、持続可能な採掘技術の共同研究・開発を世界連邦で推進することも不可欠となる。これにより、資源の安定供給と環境負荷の低減を両立し、グローバルな課題の解決を図る。
 このように、単純に「レアメタルなど資源をどうするか」だけでなく、設計から資源管理、技術共有、生活様式まで総合的に見直していく必要がある。そして世界連邦はその地球資源の統合的管理機構となる。こういったこと必要性は2030年頃より資源の天井が見え始める瞬間に徐々に噴出する。少なくとも下記の組織が世界連邦に必要になってくる。

組織名

主な機能

地球資源会計機構

資源使用量・再利用量・埋蔵量を各地域・産業別にモニタリング・記録・評価

国際希少資源分配機構

レアメタルなどを必要分野(医療・通信・再生可能エネルギーなど)へ優先的に分配

国際再資源化推進機構

廃棄物の回収・再資源化・技術支援を国際的に連携して推進

国際知識・技術共有機構

半導体・エネルギー・農業・医療分野などの基幹技術を公益目的で段階的に開放・共有

国際持続可能技術投資機構

資源効率化、代替素材、再生可能エネルギー技術、リサイクル技術の研究開発に対する資金調達・投資管理。世界的な研究機関や企業との連携支援。新技術の実証・普及プロジェクトの計画・推進。


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