○発電と蓄電
発電と蓄電も、持続可能でありながらその構造がシンプルなものが良い。そのため海、川、太陽、土地から電気を作り、それを共有する。こうして枯渇資源を使用せず自然エネルギーのみで生活を行う。
プラウトヴィレッジは貨幣社会ではないので経済活動がなく、その競争のために日々莫大な電力を消費することもない。この経済活動がなくなると、必要な電力量は大幅に削減され、二酸化炭素の排出量も大幅に減り、地球温暖化への強力な対策となる。プラウトヴィレッジではまず、次の電力設備の組み合わせを優先する。
まず主軸となる電力はマグネシウム電池で、東京工業大学の矢部孝教授が開発したもの。これはマグネシウムの薄い板が電池となり、保存でき、持ち運びもできる。このマグネシウムを負極側に、正極側に炭素系材料を塩水に浸すことで電気が取り出される。
これはスマホなどに使用されているリチウムイオン電池の8.5倍以上の電力量があり、水素燃料と比べて引火のリスクが少ない。また従来の電池でドローンの飛行時間は30分が限界だったが、2時間飛ばすことができ、ゴルフ場のカートも2時間ほど動かすことができる。
マグネシウムは海水に約1800兆トン含まれていて豊富にあり、これは毎年使用される石油100億トンの10万年分に匹敵する量。枯渇の可能性はひじょうに低い上に、世界中で利用できる。そして使用した後に残る酸化マグネシウムを1000℃以上で熱することで、もう一度マグネシウム電池として利用することもできる。
同教授は電力を使わず鏡で太陽光を集めて、それをレーザー光にして酸化マグネシウムに照射し、酸素を分離して再びマグネシウムとして再利用できる装置や、海水からマグネシウムと塩を取り出す淡水化装置も開発している。
実験で使われたマグネシウム電池は、幅16.3cm、奥行き23.7cm、高さ9.7cm、注水後の重さ約2キロで、出力は最大250W。冷蔵庫(450L)250Wが1時間動かせるほどとなる。これを5個、10個と連結すると、さらに大きな電力が必要な機器への給電も可能となっている。マグネシウム電池16kgを搭載した車なら、500kmを移動できると述べている。
海水を淡水化をする時に塩とにがり(塩化マグネシウム)が残るが、この塩化マグネシウムにレーザー光線を当てるとマグネシウムが生まれる。またマグネシウムは砂漠の砂などにも豊富に含まれているとしている。10tの海水からはマグネシウム13kgが取れるとし、これは1か月分の標準世帯の電力に相当する。
このマグネシウム電池を生活の基盤とすることで、世界中の海からマグネシウム電池を作り出し、枯渇の心配も小さく、保存と移動もできるため、条件が悪い僻地でも電気が使用できるようになる。
このマグネシウムを作り出す淡水化装置には電力が必要となる。そのため世界中にある河川や小川などで小水力発電を行い、電力を生み出す。落差と水量が生み出せる電力量に影響するが、日本の例では、岐阜県の石徹白番場(いとしろばんば)清流発電所の水車1つで、約150世帯分の125kWの電力が、落差111mという条件で生み出されている。
この小水力発電に加えて海や川などでの潮流(ちょうりゅう)発電も使用する。海の波は常に動いているため、潮流発電は昼と夜に関係なく安定的に電気を供給でき、構造がシンプルなため大規模設備を必要としないことが大きな理由。
そしてこれらに小中規模の風力発電を加えれば、風が吹いてる時は電力量が上乗せされる。風力発電もいくつかの種類が開発されており、垂直軸型の風力発電にすれば横に回るので全方向の風に対応できる。プラウトヴィレッジでは各自治体が製造と管理を行えるよう小中規模のエネルギー設備を各地に作り、分散してエネルギーを生み出すことを優先するため、大規模な風力発電は第一優先にならない。
さらに太陽光からの発電にはペロブスカイト太陽電池を検討する。これはミッドテックレベルで、レアメタルフリーで、低温プロセスで製造可能で、ガラス基板は化学薬品を使えば中のヨウ素などの材料をほとんど無駄なく取り出せる。2000年代に大規模に普及したシリコン型太陽光電池は製造に大量エネルギーと希少資源を使い、廃棄時のリサイクルも課題が多いため長期的に持続可能とは言えないため使用しない。
ペロブスカイト太陽電池で太陽から電気を生み出すので、プラウトヴィレッジでは農地に簡易な支柱を立て、その上部空間に太陽光パネルを設置する。このアグリソーラーで温暖化の強すぎる太陽光を適度に遮断しながら農業を行い、電力も作る。
ここまで述べてきたマグネシウム電池、小水力発電、潮流発電、風力発電、ペロブスカイト太陽電池はすべて発電過程で二酸化炭素などを排出しないため温暖化問題への対策となり、安定的で持続可能な発電方法となる。またこれら以外の他のエネルギー源も同時に使用して、自然エネルギーの多様化を目指す。
その一つに真空管の太陽熱温水器を使用して太陽熱からお湯を作り、風呂やキッチンで利用する。これは太陽の熱を集める集熱部とお湯を貯める貯湯部が一体となったもの。日本であれば夏は60〜90℃、冬は40℃前後の温度になる。
同時に太陽熱集熱パネルの使用も検討する。これは太陽熱で熱せられたパネル内の空気50℃前後が空気を運ぶ管を通り、家全体を温める暖房になる。
これらは太陽熱を利用するため、温水器と集熱パネルの設置時の方角と角度が重要になる。日本の場合、真南が最も効果的でそれを100%とした場合、真東と真西でも80%ほど確保できる。また屋根の角度は20〜30度が理想的。これを屋根や地面に置く。屋根に置く場合は、屋根の形もそれに合わせることになり、集熱面を大きくする。
この太陽熱温水機と太陽熱集熱パネルは、熱を熱として利用するので構造がシンプルになる。
次に電線がない場所の照明などへは、植物発電や超小型水力発電の利用を検討する。植物発電は2つの電極を地中に刺すことで、微弱な電力が得られるもの。ただその電力は非常に小さく、1つからは1.5ボルト前後の電圧となっている。これを100個つなげて、家庭用電源の100ボルトを超える発電が達成された実験もある。この時の電極の組み合わせはマグネシウムと備長炭が第一候補となり、レアメタルなど埋蔵資源は使用しない。
また長さ1mの持ち運びできる超小型水力発電も開発されており、小川でも高低差1mで発電でき、毎秒10リットルの水の流れで5Wの発電が可能となっている。
フィンランドでは砂電池も使用されている。これは太陽光や風力で得た電気を熱として砂に溜める。断熱タンクは幅が4メートル、高さ7メートルの大きさで、100トンの砂が入っている。この熱を周辺地域に供給し、建物の暖房や温水プールなどに使用している。500度以上に熱せられた砂はエネルギーを数ヶ月間蓄えることが可能。寿命は数十年。砂は乾燥していて可燃性のゴミが混じっていなければどんな砂でも使用でき、日本でも実現可能。
フィンランドでは人口3万5千人分の地区に熱を供給するためには、高さ25メートル、直径40メートルの砂を詰めた貯蔵タンクが必要だと計算されている。
この砂電池も構造がシンプルで、パイプ、バルブ、ファン、電気発熱体で構成され、建設コストも低いものとなっている。
アメリカでも砂電池が開発されているが、ここではケイ砂を1200℃まで加熱し、この砂を断熱コンクリート製貯蔵庫に貯める。これを電気に変換する場合は、水を熱して出てくる蒸気の力で、羽がたくさんついたタービンという水車を回す。このタービンは発電機につながっていて、電気が作られる。熱から電気をつくる場合は、この設備が必要となる。
これらに加えて固形バイオマスも使用する。これは木材、稲わら、雑草などの植物を乾燥・圧縮して固形燃料(ペレットやブリケット)にしたもの。燃やすことで熱や電力を得ることができ、設備もシンプルで維持が容易。燃焼時に二酸化炭素が出るが、植物が成長時に吸収した分と相殺されるため、カーボンニュートラルとされる。特に地域に豊富な未利用資源(雑草など)を活用すれば、持続可能で安全性の高いエネルギー源になる。
ここまでがプラウトヴィレッジでの主要な発電と蓄電方法となり、二酸化炭素排出がゼロ〜中立で、レアメタルや枯渇資源に依存せず、分散型の発電方法となる。あとは資源のリサイクル率をできるだけ高める。
プラウトヴィレッジでの主要な発電と蓄電方法
○利用しない発電と蓄電
次に表はすでにある発電方法で、それを利用しない理由。レアメタルを使用したり、環境負荷が高く持続可能でないものは使用しない。
利用しない発電・蓄電方法
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