4章 住居 : 持続可能な社会プラウトヴィレッジ 第三版

 ○住居設計 

 日本の住宅の多くは断熱性が低いため、冬にいくら暖房しても熱は奪われていき、窓には結露(けつろ)が発生する。この状態で暖房を続けても電力の無駄使いとなる。そのため断熱材を使い、熱が逃げる部分を作らない。これに複層ガラスや24時間の機械換気を加えることで、夏も冬も冷暖房を24時間使いながら、低い電力量で済むようにする。

 またビル、マンション、住居で使用されるコンクリートは、その製造過程で二酸化炭素を大量に放出し、地球温暖化に大きな影響を与えていることから、使用量を減らす必要がある。

 こういった問題含め、充分な家に住めない貧困、難民問題などにすぐに対応しながら、今からでも作り始めることができ、かつ世界中で持続可能な家の在り方を考えると、基本素材は早生桐(そうせいぎり)、竹、藁(わら)、土、粘土、石、石灰、水となる。


 藁は稲や小麦などの茎を乾燥させたもの。稲は日本からインドまでのアジア圏で多く作られる。麦はアフリカ、ヨーロッパ、アジア、ロシア、オーストラリア、カナダ、アルゼンチンなど世界中で作られている。そのため藁はどこでも得ることができ、これを束ねて約50cm幅のブロックにしたものを断熱材とし、住居の柱と柱の間に積み上げていく。その藁壁の内と外に土を貼り付けて土壁を作る。こういった家はストローベイルハウスと呼ばれ、気密性・断熱性が高くなる。ベイルは干し草や藁を圧縮してブロックの形にするベーラーという農業機械によって作られる。


 また砂、粘土、藁などに水を混ぜて土壁やレンガ壁を作るコブやアドベという建築方法も、昔から各大陸で見られる。藁など繊維質を混ぜると、細長く伸びた藁が土と土をつなげ、コブの引張強度は高まる。
 これらの土壁は風雨にさらされ弱くなることから、油を混ぜた漆喰などをさらに外側に塗り、防水性、耐久性を高める。

 この住居内側の土壁は、冬場の太陽光などの熱の蓄熱もする。それにより太陽が沈んだ後も暖かさが持続する。

壁の厚みによる蓄熱の違い

壁の厚み

放熱持続時間(目安)

備考

5cm

2〜3時間程度

蓄熱は浅く、効果も短め

10cm

4〜6時間

日没後の夜〜深夜前まで持続

20〜30cm

6〜10時間

深夜まで保温、断熱効果も増大


 夜間に放熱を最大化する工夫としては次の要素があげられる。

・内壁表面は塗装せず土のまま(または漆喰よりも吸熱性のある素材)が理想。
・温風の吹き出し口を壁の近くに設置し、壁全体をまんべんなく温める。
・外気が入らないように断熱性の高い窓・建具を併用。



プラウトヴィレッジの住居設計

分類

項目

内容

設計方針

持続可能性

再生可能な植物素材・地域資源中心、自然循環型の住まい


地球環境配慮

コンクリート削減によりCO₂排出を抑制、自然に還る建材使用


グローバル適用性

各大陸で古来使用されてきた建築法(ストローベイル、コブなど)を採用

主要素材

早生桐

柱材・家具材に使用。5年周期で伐採可。温暖な気候で世界中に適応可


藁(ストローベイル)

世界各地で収穫可。断熱材・壁材として使用。熱伝導率 0.05〜0.09 W/(m·K)


土・粘土

土壁・レンガ用。アドベ・コブ建築に使用。乾燥や雨対策が必要


石・礎石

石場建ての基礎に使用。地震エネルギーの分散効果あり


石灰・水

漆喰や壁塗装材、補強材に。自然に還る素材群

建築技法

ストローベイル

藁を50cm厚に圧縮成形し、柱間に積み上げ。外側に土壁を形成


コブ・アドベ

土・藁・水を混ぜ、練り上げて厚みある土壁を形成。強度・防火性あり


竹こまい+土塗り

室内間仕切り等に。日本伝統技法

壁の厚さ

住居内の土壁

厚さ20〜30cmを目安

断熱性能順

比較

①グラスウール

約0.016 W/(m·K)(断熱性が高い)


②藁(わら)

約0.05〜0.09 W/(m·K)


③茅

約0.041 W/(m·K)、干草は約0.037 W/(m·K)


④土壁

約0.5〜0.8 W/(m·K)


⑤木材

約0.1〜0.2 W/(m·K)


⑥コンクリート

約1.7〜2.3 W/(m·K)(断熱性が低い)

防湿・雨対策

屋根設計

庇や水切りを十分に伸ばし、雨水を遮る構造


基礎の高さ

雨水の跳ね返りが壁に届かないよう基礎を高めに設置


地面からの湿気遮断

地面との通気・断熱層の確保


通気構法

壁内に空気層を設け、結露や湿気を放出する構造

基礎構造

石場建て(第一選択)

礎石上に柱を置く。地震エネルギーを逃がす構造。再利用性あり


コンクリート基礎(代替候補)

必要に応じて限定使用。使用を最小限に抑える方針


 ただ藁は量が限られてくるので、他にも次のものも断熱材として候補になる。 

⚫︎乾燥雑草・ススキ・葦:藁の代替としてブロック化可能 
⚫︎木質チップ・竹チップ:圧縮してパネルや壁材に利用 
⚫︎紙・段ボール(セルロース):粉砕・圧縮で軽量断熱材 
⚫︎土・粘土+有機物(藁・草)混合:蓄熱+断熱のハイブリッド

 移住者の急増などで断熱材の調達に時間がかかる場合は、アドベ壁で住居を完成させて居住を開始する。その後断熱材が調達でき次第、外側に施工して完成させる。そのため設計も後から拡張することを前提にしておく。


○家庭排水

 家庭から出る主な排水は、洗濯機、台所、洗面所、風呂場、トイレからだが、これらをまとめて処理する方法として、水洗式バイオトイレを使用する。これは家庭排水を発酵槽の中へ流し、その中の微生物が排水を飲用レベルまで浄化するもの。この微生物は人間の排泄物もトイレットペーパーも分解する。水洗用の水は雨水をタンクに貯めて使用する。設備の素材も石油素材の配管は使用せず、粘土を1000℃以上の高温で焼いて作る陶管を使用する。これによって家庭のあらゆる排水は一括処理され、下水道は必要なく、綺麗になった水は農地へそのまま戻す。


○歯磨き

 歯磨きは始めにデンタルフロスで歯と歯の間を掃除する。そして次亜塩素酸水(じあえんそさんすい)でうがいをして殺菌・感染予防をしつつ、天然ミネラル歯磨き粉で歯を磨き、最後に次亜塩素酸水で軽くすすぐ。次亜塩素酸水は人体にも無害で、作り方も食塩水に電気を通すだけでシンプルになっている。


次亜塩素酸水(Hypochlorous acid water)

項目

内容

主成分

次亜塩素酸(HOCl)

原料

食塩(NaCl)、水(純水や精製水)、電気

製造方法

食塩水を電気分解し、次亜塩素酸を生成

殺菌作用

強力な殺菌・除菌効果(細菌・ウイルス・カビに有効)

安全性

低刺激で人体・環境に比較的安全

用途

口腔ケア、傷口消毒、食品洗浄、家庭の除菌、農業など多用途

保存期間

数時間から数日(保存条件による)

注意点

直射日光・高温に弱く、効果は時間経過で低下


天然ミネラル歯磨き粉の成分

材料

役割・特徴

自給方法・ポイント

炭粉(竹炭粉・木炭粉)

物理的研磨+抗菌・脱臭効果

竹や木を炭化し粉砕。粒度を細かく調整し歯を傷つけにくく。

貝殻粉(アサリ、カキ、シジミ等)

高純度の炭酸カルシウム供給源、歯の再石灰化サポート

海辺で採取、または内陸部では貝殻の保存・交換利用。粉砕して使用。

天然ハーブオイル(ティーツリー、クローブ、ミントなど)

抗菌・消炎・口臭予防

ハーブを栽培し、蒸留や圧搾で抽出。少量使用で十分効果的。

ミネラルウォーターまたは植物油

ペーストの基材(練り剤)

井戸水や湧き水、植物油(ごま油、なたね油など)を利用。


レアメタルフリー電動歯ブラシ

 手磨き用の歯ブラシも良いが、虫歯予防に電動歯ブラシを利用する方がより綺麗になる。

要素

内容

モーター

鉄芯・銅線巻き、フェライト磁石、ブラシ付きタイプ

電池

マグネシウム空気電池(交換式 or 水補充式)

ブラシ部

動物毛 or 麻繊維など+竹・木製ハンドル

ケース

木製・竹筒・セルロース樹脂製ボディ

制御

スイッチ付きで単一モード、またはレバー式作動でもOK


 貨幣社会では3ヶ月に一回歯医者に行って、定期検診で歯石取りを行うことが薦められている。プラウトヴィレッジでは医療への負担を減らすことも考えると、各家庭で初期の歯石を取る練習を小さい時から学ぶ。硬くて頑固な歯石の場合のみ歯医者に頼る。


○石鹸

 石鹸も自然由来のものを作る。

植物性石鹸

項目

石鹸草(サポナリア)

ソープナッツ(ムクロジの実)

主な成分

天然サポニン(根に多い)

天然サポニン(果実に多い)

生育地域

温帯~寒帯地域(日本含む)

熱帯〜亜熱帯(主にインド、東南アジアなど)

栽培の容易さ

比較的簡単、多年草

温暖な地域で可能だが日本本土では難しい

食器洗い

可(泡立ちは控えめでやさしい)

可(適度な泡立ちで洗浄力もあり)

衣類洗浄

可(やさしい洗浄で生地にやさしい)

可(洗浄力あり、自然にやさしい)

体用(ボディソープ)

可(低刺激で敏感肌にも適す)

可(低刺激で自然派に好まれる)

頭用(シャンプー)

可(泡立ちは少なめでやさしいがリンス必要)

可(天然サポニンで頭皮に優しい)

洗浄力

中程度

中〜強

使用方法

根を煮出して天然洗浄液として使用

実を煮出すか布袋に入れて洗浄水を作る

環境負荷

低い

低い


木灰(もくばい)石けん

項目

内容

名称

木灰石けん(早生桐灰使用)

原料

廃食用油・植物油などの油脂 + 早生桐の木灰から作る灰汁(水溶液)

アルカリ源

早生桐の灰から作った灰汁(アルカリ水、pH約10〜12程度)

洗浄力

中~高(早生桐灰のアルカリが強いため、一般的な木灰よりも高い)

使用用途

食器洗い、手洗い、衣類洗濯、軽度の油汚れ落とし。配合を変えて体や頭の洗浄にも使用。

作り方のポイント

早生桐灰汁を濃く抽出し、油脂と弱火でじっくり混ぜて鹸化。火加減と混ぜ方が品質を左右する

持続可能性

◎(早生桐は成長が速く、広葉樹のため良質な灰が得られ、燃料・資源としても優秀)

環境負荷

ほぼゼロ。化学物質・レアメタル不使用。廃棄物も出ない持続可能な循環型生活に適合

仕上がりの特徴

色は淡いベージュ~灰色。泡立ちは控えめだが洗浄力は十分。乾燥保管で長持ち。

注意点

灰汁の濃度管理が重要。弱すぎると洗浄力が落ち、強すぎると肌に刺激が出る可能性あり




○コンポスト

 ゴミの処理については、まずプラウトヴィレッジのような自給自足社会では、スーパーやコンビニがなく、商品を包むビニール袋、ペットボトル、カン、ビンなどの自然分解されない容器や包装のゴミはない。つまり残るのは生ゴミや自然分解される容器だけとなる。そのためプラウトヴィレッジではコンポストを使用する。これは「微生物による有機物の分解・堆肥化」という同じ原理で動いている。

項目

コンポスト

主な対象物

生ごみ、食品残渣、庭の落ち葉など

処理場所

庭や施設内のコンポスト容器等

分離の有無

分離しない

運用頻度

定期的に攪拌し、水分調整や温度管理が必要

衛生管理

腐敗臭や害虫の防止、適切な管理が必要

水使用量

水はほぼ不要

補足

有機物の分解を微生物が促進



○小型洗濯機と洗浄場所


 また、乳児用や介護用の紙オムツは、森林を伐採して作られている。そして使用済みの湿ったオムツを燃やすためにより強い火力が必要となり、その分多くの二酸化炭素が排出される。そのため布オムツが第一選択肢になる。化学繊維のオムツを使用するとかゆみを伴うこともあるので、自然素材を使用する。どこの住居でも乳児や高齢者、要介護者が出入りするので、全ての住居に布オムツの小型洗濯機と洗浄場所を備える。


○住居建設のルール


全体」
●住民が手作業で組み立てられる設計。
●住居の形は円形で二階建てを基本。

●日本の場合、住居敷地は直径16m、住居の直径は12mを目安。
●二世帯住宅として6人暮らし用、高齢者用の家、一人暮らしやシェアハウスとして6〜8人用を作る。高齢者用は足の不自由な人、車椅子、寝たきりの人がいることを前提にする。
●造りは美しく芸術的にする。住人の内面の安らぎに影響するため。

●窓も扉もあらゆる角は丸みをおびさせることを基本とする。

●住居周辺には太陽熱温水器、蓄熱タンク(暖房用)、貯湯タンク、給水タンク、蓄冷タンク(冷房用・第二選択肢)が設置される。太陽熱温水機は自動車のカーポートの屋根として設置する。

●建設位置の地盤が軟弱でないところに建てる。

素材

●建築素材は早生桐(そうせいぎり)、竹、藁(わら)、土、粘土、石、石灰、水を第一候補とする。ただ石灰は少量にする。
●住宅基礎は石場建(いしばだ)てを第一候補とする。
●コンクリートは基本使用しないが、例外はある。

全体的な造り
●雨水を確実に処理できる屋根を使用し、その庇(ひさし)や窓の水切りを適度な長さにして雨水から壁を守る。

●住居の土台を高くし、地面を飛び跳ねる雨水から壁を守る。

●地面からの湿気が壁内に入らないようにする。
●外断熱で高気密化、高断熱化する。

●窓は複層ガラス(2層か3層)を使用する。

●カビが発生しない作りにする。

●窓の配置は、隣の住居から中が丸見えにならない位置にする。
●各部屋は防音を施す。

●階段幅、扉の大きさ、通路は、グランドピアノなど大きな荷物を運べる広さを検討する。

●電力は、マグネシウム電池、潮流発電、小水力発電、超小型水力発電、小中規模の風力発電、植物発電、砂電池、太陽熱温水機、太陽熱集熱パネルを状況に応じて取り入れる。

●生ゴミはコンポストを使用する。

●風呂場、洗面所、台所などの排水溝は大きくしておき、ゴミが詰まらない設計にする。

●高齢者や乳児の布オムツや排泄後のお尻を簡単に洗える場所を、風呂場付近に設ける。排泄物がつまらない排水溝の設計。

●窓、扉、断熱材、配線、塗装は自然に返せる素材を使用。


自然災害対策
●ゲリラ豪雨の場合、床下浸水、床上浸水(地面より1m)を防ぐ作りにする。

●南海トラフ地震の揺れに対する耐久性。

●巨大地震が起こった場合の家具、内装、照明の在り方とする。

●住居と住居の距離は最低4m開ける。

●海に近い場合、塩害対策を屋外にあるエアコンの室外機や給湯器など設備に施す。

●噴火が起きて太陽が遮られた時、他地域からの地下電線で送電できる設備にする。

●屋根に火山灰が積もって、それを簡単に除去できる作りか。

●屋根に雪が積もった時に手作業で除去できるデザイン。高齢者の落下の心配がない造り。もしくは電熱方式の屋根融雪システムで雪を溶かす設備も検討。

●竜巻や米国のハリケーンにあった場合に、住居は何キロの重さまでなら飛ばされないか確認。飛ばされない工夫を施す。

●台風で周囲の木が折れた場合、どの程度の重みまで耐えれるかの強度を確認する。

●台風で住居から落下、もしくは飛んでいくものがない設計。

●落雷に対する対策をする。

●電源には全てコンセントキャップをつける。火事防止。



○麻(ヘンプ)


 麻はレアメタル不要で、丈夫で多用途、かつ環境負荷が低く持続可能な素材なので、プラウトヴィレッジでは、あらゆる分野に利用する。

利用分野

用途・特徴

具体例・補足

繊維・布製品

強靭で通気性が良く耐久性高い天然繊維

衣類、靴下、バッグ、ロープ、布地、タオル

織物・紐・糸

麻糸として紡いで布や糸を製造

歯ブラシの毛、デンタルフロス、紐、網

紙・パルプ

麻パルプは強くて耐久性がある

書籍用紙、包装紙、紙製品

建築資材

麻繊維を利用した断熱材や強化材

ヘンプクリート(麻セメント)、断熱材

食品・栄養

麻の種子は高タンパク・良質脂肪酸源

麻の実(ナッツ)、麻油、ヘンププロテイン

燃料・エネルギー

バイオマス燃料として利用可能

バイオ燃料、ペレット

医療・健康

麻の一部成分は医療用途もあるが、産業用麻は違う

湿布や軟膏(限定的)

化粧品

麻油や麻由来成分のスキンケア製品

保湿クリーム、ローション

生活雑貨・道具

生活用品の素材として

カゴ、縄、マット、ブラシ、ロープ

繊維補強材

他の素材の強化剤として

合成樹脂の強化繊維


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