第3章4 産業革命後:文明の繁栄と衰退のパターン

◯世界的な都市化の傾向


 都市(urban)の意味について世界共通の定義は存在しない。国ごとの定義のばらつきは、各国間の比較を難しくし、国際的な統計の信頼性にも課題を生み出している。実際、以下のようにばらつきがある。

⚫︎最も一般的な基準:人口2,000人または5,000人以上
⚫︎最も低い基準:スウェーデン・デンマーク:200人
⚫︎最も高い基準:日本:5万人(=スウェーデンの250倍)


 よってここでは、農村から都市への移住する人が増えているという傾向を見るための参考としてみていく。


 日本やブータンで見られた農村から都市への人の流れと、それに伴うTFRの低下、そして医療体制が整備されていく中での一時的な人口の増加傾向は、世界中の国で共通して観察される。TFRは2.1人を下回ると人口が減少していく。

TFRと人口動向の関係

合計特殊出生率(TFR)

意味

2.1以上

人口維持

1.7~2.1

ゆるやかな人口減少

1.5 以下

深刻な少子化(超少子化)

1.3 以下

人口再生産不能水準と呼ばれ、回復が困難


⚫︎北米

(アメリカ、カナダ)

北米のTFR(1921年〜2023年)


北米の人口(1938年〜2023年)


アメリカの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~USA

⚫︎ヨーロッパ
ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、スイス、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、オーストリア、アイルランド)



ヨーロッパのTFR(1891年〜2023年)

ヨーロッパの人口(1938年〜2023年)


ヨーロッパの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~OWID_EU27

ドイツの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口



https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~DEU



⚫︎南米

(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム、ブラジル)

南米のTFR(1950年〜2023年)

南米の人口(1938年〜2023年)


ブラジルの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~BRA

コロンビアの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~COL

⚫︎アフリカの経済大国10カ国
(ナイジェリア、南アフリカ、エジプト、アルジェリア、モロッコ、エチオピア、ケニア、アンゴラ、ガーナ、タンザニア)

アフリカのTFR(1921年〜2023年)

アフリカの人口(1938年〜2023年)


南アフリカの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口


https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~ZAF


ナイジェリアの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~NGA

 ケニアのように農村人口が都市より多い国もある。エチオピアも同様の形のグラフになる。

ケニアの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口


https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~KEN


⚫︎アジアの経済大国トップ10(中東を除いた)

(中国、インド、日本、韓国、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、バングラデシュ、シンガポール)

アジアのTFR(1947年〜2023年)

中国とインドの人口(1938年〜2023年)


アジアの人口(1938年〜2023年)


中国の都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口


https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~CHN


インドの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口


https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~IND


⚫︎中東
(サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェート、オマーン、バーレーン、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン)

中東のTFR(1950年〜2023年)

中東の人口(1938年〜2023年)


イランの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~IRN

アラブ首長国連邦の都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~ARE


サウジアラビアの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~SAU


⚫︎オセアニア
(オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジー、ソロモン諸島、バヌアツ、サモア、トンガ、キリバス、マーシャル諸島)

オセアニアのTFR(1950年〜2023年)

オセアニアの人口(1938年〜2023年)


オーストラリアの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~AUS

ニュージーランドの都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population?country=~NZL


⚫︎世界

世界のTFR(1950年〜2023年)


世界の人口(1938年〜2023年)


世界の都市(Urban areas)と農村(rural areas)の人口

https://ourworldindata.org/grapher/urban-and-rural-population

 農村から都市への移住増加に伴い、世界的に単身世代も増えている。

世界の単身世帯の割合(1960年から2018年頃まで)


 次のグラフでは、一人当たりGDPがより大きく成長した国では、一人暮らし世帯の増加もより大きいことがわかる。経済的に余裕がある人が一人暮らしを選択することが多い。これは高い収入を得るため、農村から都市へ移住する人が増えていることも関係し、経済的な豊かさが心理的な独立と生活の自由を促している。


一人暮らし世帯の割合と一人当たりGDP(2018年)


https://ourworldindata.org/grapher/one-person-households-vs-gdp-per-capita


 世界中で都市化が進んでいるため、TFRはこのまま下がり続ける傾向となる。ただ医療設備の普及で世界の総人口は一時的に増えていく。国連の2022年の世界人口見通しでは、世界の人口規模が2050年には94億人から100億人の間、2100年には89億人から124億人の間と予測されている。多くの国ではTFRが2.1人を下回っていくので、世界人口はやがて減少に転じる方向性となっている。
 
出典:
World Population Prospects 2022: Summary of Results, 国連
https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/wpp2022_summary_of_results.pdf


 UNFPAとYouGovによる2025年の調査では、世界14カ国を対象に出生や子育てに関する意識調査が行われた。対象国は韓国、タイ、イタリア、ハンガリー、ドイツ、スウェーデン、ブラジル、メキシコ、アメリカ、インド、インドネシア、モロッコ、南アフリカ、ナイジェリア。これらの国々は低・中・高所得国を含み、都市化しており、出生率の低い国から高い国まで幅広くカバーされている。調査対象者は約14,000人で、世界人口の約3分の1を占める地域に住む成人が含まれている。この調査は、TFR低下の背景にある経済的、社会的、文化的要因を明らかにすることを目的としている。その結果をまとめたのが次の表で、日本の要因とも重なっている。


TFR低下に影響する要因

カテゴリ

TFR低下に影響する要因

(UNFPA/YouGov調査)

内容

経済・生活コスト

育児費用の増大

子供を育てるための費用が高く、望む子供数を持てない


住宅問題

都市部の住宅コストの高さが子育ての障壁に


雇用の不安定さ

安定した収入がないことが出産・育児の制限要因

社会・制度

育児負担の不平等

不平等な家庭内負担が子供を持つ能力を損なう


有給育児休暇の不足

特に父親向けの柔軟な育児休暇が少なく、育児参加が制限される


育児支援サービスの不足

手頃な価格で利用できる保育・育児サービスが不足

性・ジェンダー

ジェンダー不平等

女性の労働参加を妨げる職場規範や男性の育児参加への偏見が存在


生殖権の制限

避妊、中絶、不妊治療などに関するアクセス制限がある

個人的要因

適切なパートナーの不在

結婚・出産を希望してもパートナーが見つからない


将来への不安

経済的・社会的な不安が出産決定に影響

調査結果

望む数の子供を持てない人

世界の5人に1人が、望む数の子供を持てていない


子供を持つ圧力

5人に1人が望まない妊娠の圧力を経験


予期せぬ妊娠

成人の3人に1人が経験


望む子供数を持てなかった割合

50歳以上の回答者の40%


 人々が都市へ移住する主な理由は、より良い生活機会とサービスへのアクセスを求めるため。特に、若年層がより良い仕事などを経済的な機会や、教育機会を求めて都市へ集まる傾向がある。低所得国では15〜19歳の年齢層、高所得国では大学教育を受けるために20歳から都市への移住が始まる(UN-Habitat, World Cities Report 2022, Section 2.3)。
 またこの報告書では、都市人口増加の約60%が自然増加によるものであると述べている。残り40%は農村や他地域からの移住と、元々は農村や小さな町だった地域が人口増加や都市化の進展によって都市として新しく分類されるようになったためと推定している。このため、都市への移住を制限しても都市人口の増加を抑える効果は限定的であると結論づけた。

出典:
UNFPA. The real fertility crisis: The pursuit of reproductive agency in a changing world. Press release, 10 June 2025. United Nations Population Fund (UNFPA). https://www.unfpa.org/press/unfpa-report-links-falling-birth-rates-cost-living-sexist-norms-fear-future
https://www.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/EN_State%20of%20World%20Population%20report%202025.pdf

UN-Habitat. (2022). World Cities Report 2022. Nairobi: United Nations Human Settlements Programme. Section 2.3: What is Driving Population Growth in Cities? https://unhabitat.org/sites/default/files/2022/06/wcr_2022.pdf



 都市化それ自体は産業革命後に始まったわけではなく、古代に定住を始め農村ができた時からゆっくり始まり、やがて貨幣が導入され、商業の発展と貨幣への依存度と共に進み、それが産業革命後に加速している。

人類史における主要な革命

革命の種類

時期

自給自足 or 貨幣

主な内容・特徴

農業革命

紀元前10000〜前3000年

自給自足生活。物々交換。貨幣なし。

狩猟採集から農耕・牧畜へ移行、定住生活の開始。土器・灌漑技術の進展、人口増加、農村形成、社会階層の萌芽。

都市革命

紀元前3500〜前2000年

自給自足が主。一部で秤量貨幣の初期形態。

メソポタミアなどで都市国家が誕生。灌漑農業、階級社会、統治機構、文字、専門職の出現。

商業革命

1400年代後半〜1700年頃

自給自足と貨幣経済の併存。都市部で貨幣依存が高まる。

新大陸との交易拡大、商人階級の台頭、植民地主義、貨幣経済の発展。1694年に世界初の中央銀行(イングランド銀行)設立。

産業革命

1760〜1840年(第1次)

農村で自給自足と貨幣依存の併存。都市部で貨幣中心。

蒸気機関、機械化工業、工場制度、大規模都市化。資本主義と労働者階級の確立。

交通・通信革命

1850〜1914年

自給自足は限定的。貨幣中心が主流。

鉄道、自動車、飛行機、電信、電話の普及。グローバル化と情報伝達の高速化。

情報革命

1970年代〜現在

自給自足は少数派。貨幣中心社会。

コンピュータ、インターネット、AIの登場。デジタル化、情報社会、グローバル経済の統合、データ駆動型社会の形成。


コメントを投稿

0 コメント